この世界は 2024/01/15

「すいません、白状します。この世界は夢なんです」

 突然隣に座っていたフサ男が何事かを言い始めた。

 体毛がすごくてフサフサしてるから、フサ男。

 毎回とんでもないことをしでかす男だが、今度は何をする気だ?

 興味がわいたので話題に乗っかってみる。


「夢って、誰の?」

「マンモスの夢です」

「マンモスの夢?」

 思わず言葉を繰り返す。

 マンモスときましたか。


「マンモスが氷河の中で氷漬けになっていて、ずっとコールドスリープみたいな形で寝ていたのです。

 ですが、最近気温が上がって氷も解けて、覚醒し始めてるんです」

 ふーん、突拍子もないけど、暇つぶしの茶番に使える位程度には筋が通ってる。

 これからどう話を転がすのだろうか?


「マンモスが起きたらどうなるの?」

「全部無かったことになります」

 フサ男はとんでもないことを言い出した。

「茶番にしては、設定が怖すぎる」

「茶番ではありません。これを見てください」


 フサ男はテレビを点ける。

 テレビではお笑い番組をやっていたが、すぐに切り替わり会見の様子が映し出される。

 なにかの緊急会見らしい。


 その会見席の真ん中で偉そうに座っている男性がしゃべり始める。

「皆様、ここにお集まりいただきありがとうございます。

 日本が誇る研究機関が重大な発見をしましたので、ご報告させていただきます」

 思い出した。

 なんとかっていう総理大臣だ。


「この世界は、誰かの夢だと言事が判明しました」

 総理の発言に耳を疑う。

 フサ男の言っていた通りじゃないか!


「皆さん信じられないのも無理はありません。

 のちほど証拠はお見せします。

 ですが、まず最初に伝えたいことは、我々は諦めておりませせん」

 会場からおおーという歓声が起こる。


 当然だ。

 誰も消えてなくなりたくはない。

 みんなこの世界が好きなのだ。


「我々は対策のための組織を作ることに決定しました。

 そういうわけで増税いたします」

 またも耳を疑う。

 今、なんて言った?


「総理、増税とはどういうことですか!?」

 会見に来ていた記者が質問の形で抗議をあげる。

 ナイス記者!


「対策には必要なことで――」

「そう言って前も増税しましたよね。

 しかも無駄遣いして!」

「お仲間が脱税した分を使えばいいでしょう!!」

「本当は嘘で、税金上げたいだけではないんですか!!」

「違います。本当に、夢で――」

「金の亡者どもめ!」


 会見は紛糾していた。

 物が飛び交い、記者が詰め寄ろうとして、警備員がそれを阻止しようとする。

 外から入り込もうとする人間がいることも、テレビからの様子で分かった。


 もはや暴動だった。

 これが自分たちの愛した世界だというのか……


「この世界は本当に夢なの?」

 テレビを見ながら、フサ男に尋ねる。

「そうだよ」

「そっか。

 でも、さすがに夢が無さすぎる」

「ゴメン」

 フサ男は、心の底から申し訳なさそうに謝ってくる。

「なんで謝るのさ。ていうか、なんで分かったの?」


「ああ、それはね。その、明晰夢というか、僕がそのマンモスなんだよね」

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