雪 2024/0107

 彼氏と一緒に学校の帰り道を一緒に歩いていると、雪が降ってきた。

 雪嫌いなんだよね。

 猫ではないけど、早く家に帰ってコタツに入りたいな。


 そのとき私の頭に天啓が降りてきた。

 これは利用できる、と。


 私たちが付き合い始めて一週間、まだ彼と手を繋いだことが無い。

 異性との交際が初めての私には、タイミングが分からないのだ。


 だが今雪が降っている。

 手を繋ぐ理由としては最適だろう。

 雪よ、降ってくれてありがとう。

 私は華麗に手を繋いで見せよう。


 『寒いね』と言いながら、彼の手を握る。

 完璧な作戦だ。


 そうと決まれば話は早い。

 あくまで自然に、さっと手を繋ぐ。

 彼に気づかれぬよう、視界の端で彼の手をとらえながら――手が無い!?


 よく見れば、彼はポケットに手を入れてらっしゃる。

 そうだね、寒いもんね。

 完璧な計画はあっけなく崩れた。


 仕方ない、プラン Bだ。

 向こうから握ってもらうことにする。


「寒いね」

「そうだな」

「はあー、寒いなあ」

「そうだな」


 ……おかしいな。

 手を繋ぐどころか、話題が発展すらしない。

 反応が悪すぎる。


 遠回しに言いすぎたか?

 しかたない。

 もっと分かりやすくいこう。


「手が寒いなあ」

 これでどうよ。

「俺も寒い」

 なん…だと…

 彼から予想外の答えが返ってくる。

 そこは『俺が温めてやるよ』じゃないのか!?


 私は結構分かりやすく、というかもう全部言っている気もするけど、どういうことなんだろう?

 ひょっとして、私と手を繋ぎたくないのかな?

 ちょっと落ち込む。


 様子のおかしいことに気づいたのか、彼が声をかけてくる。

「調子悪いのか?」

 あなたのせいです、とは流石に言えない。

 手を繋ぎたいだけなんだけどな。


 私が答えないのをどう思ったのか、彼はずいっと私に体を寄せる。

「……そこのコンビニに入ってで暖まろう」

 そう言って、いきなり私の手を取り、近くにあるコンビニのほうに引っ張っていく。


「ちょ、ちょっと待って」

「寒くて調子悪いんだろ。寒いの苦手だって言ってたもんな」

 彼は振り返ることもせず、私をどんどん引っ張っていく。

 握られた手から彼の熱が伝わってくる。


 彼は振り返らず、どんどん私を引っ張っていく。

 そんな彼の耳が赤く染まっているのを見て、彼も緊張してるのかなぁと、場違いなことを考える。


 そして、今私は彼と手を握っているという事実に気づいた時、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。

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