君と一緒に 2024/01/06

「買い物についてきてくれない?

 買うものがたくさんあって、一人じゃ大変なの」

 日曜日の朝、妻はそう言った。

「いいぞ。ついでにデートしようか」

 そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。

 普段家事を任せているので、こういう時は手伝うことにしている。

 彼女も助かり、俺もデートできる。

 一石二鳥だ。


    ◆◆◆


 服を着替えて、俺は車の運転席に乗る。

 二人で行くときは、俺が運転する。

 それが暗黙のルール。

 妻が乗り込んだことを確認して、車を発進させる。


 助手席に座っている妻の顔を横目で見る。

 彼女はいつものようにまっすぐ前だけを見ていた。

 獲物を狙うような狩人の目。

 大抵の人間は怖がるだろうが、俺は彼女のその目に惚れたのだ。


 思えば付き合う前も後も、やけに積極的だった。

 最初はその気がなかったのに、結婚までいった。

 つまり、俺はまんまと狩られたのだ。

 でも悪い気がしないのは、惚れた弱みという奴だろう。


 今日の獲物は何だろうか?

 そう思いながら彼女を見ていると、見ていることに気が付いたのか妻が顔をこちらに向ける。

「何?」

「ああ、何を買う予定なのかなって……」

「うん、2、3日分の食料とお米。

 お米が無くなりそうなの」

「なるほど、米か。重たいからな」

「うん、頼りにしてる」

 そう言うと、彼女は再び前を向いた。


   ◆◆◆

 

 車から降りて、店の中に入る。

 店にってすぐ、視界一杯に山のようなものが見えて、思わずたじろぐ。

 何事かと思い近づいて見ると、トイレットペーパーを山のように積み上げたものだった。

 立札には、『本日の商品』『お値打ち価格』『今日だけこの価格』など、たくさんの売り文句が書いてある。

 その値段は、12ロール100円!?

 安っ!

 値段設定大丈夫なのか、コレ。


 思わず妻の方を振り返る。

「お一人様一個までみたいね。

 今日は、君と一緒に来てよかったわ」

 妻はまるで今気づいたかのように、落ち着いて俺に話しかける。


 だが彼女は最初から知っていたのだろう。

 俺じゃなくても分かる。


 彼女は、獲物を前にした猛獣の目をしていた。

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