今年の抱負 2024/01/02


 去年、私の引っ越してきた土地には、変わった新年の行事がある。

 初めて聞いたときは、耳を疑ったものだ。

 日本は広いとはいえ、こんなに変わった行事は他にはないだろう。

 正直、今でも信じられない。


 それを聞いたのは、引っ越してから初めてできた友人の和子からである。

 どうしても信じない私に、和子は「やってるとこ見せてやる」と宣言。

 そして私も興味があったので、かるく了承したのだが――

 当日、誘った和子本人が待ち合わせ場所に来ない。

 ここから見える時計が正しければ、もう30分待っている。

 和子に連絡を取りたいが、家にスマホを忘れてしまった。

 さりとて家に帰るには、少々遠い……

 寒さに震えながらどうしたものかと悩んでいると、遠くから手を振りながら和子がやってきた。


「ゴメン、待った?」

 遅刻してきた和子が笑顔で謝って来たので、

「うん、すごく待った。凍るかと思ったよ」

 と笑顔で返す

「ゴメン」

「マジで反省してね」

「ウス」

「ほんとに反省してる?」

「ほんとだってば!ほら早くいかないと始まるから行くよ」

 和子は分が悪いと思ったのか、目的地に向かって先に行ってしまう。

「あっ、待ってよ」

 私は小走りで逃げていく友人を追うのであった。


 □ □ □


 しばらく走ると目的地に着いた。

 川のほとりにたくさんの人が集まっている

「ふう、間に合ったね」

「よかったよ。

 間に合って……

 でアレ、用意した?」

「うん、もってきた。『今年の抱負』の書き初めだよね」

「オッケー。忘れてたら取りに帰らないといけないからね」

「それは嫌だなあ」

 私たちは世間話をしながら、集まっている人の所に歩く。


 和子は「そういえば」と言いいながら、私を見る。

「君の地元ってどんな風にするの」

「そうだね、前のとこは――

 田んぼで燃やすかな」

「田んぼ!?燃やす!?信じられない!」

「そして燃やした火で餅焼いて食べる」

「ひええ。変わってるなあ」

「ここほどじゃないよ」

「ほんとかなあ」

 と二人で「あはは」と笑い合う


「そろそろ時間です。準備してください」

 雑談していると、リーダーと思わしき人の声が聞こえた。

「じゃあ、いこっか」

 和子の言葉に倣い、川に近づく。

 

「では、みなさん。時間です。『今年の抱負』を流してください」

 その言葉を合図に書初めを川に流す。

 緊張から来る汗をぬぐいながら立ち上がり、自分の流した書初めを目で追う。

 和子も自分の書初めを流し終えたのか、私の隣に立つ。


「すごい綺麗だね」

「うん、こうやって毎年、『今年の抱負』を放流しているんだ。

 そうして放流された『今年の抱負』は一年後大きくなってここに戻ってくる。

 けれど……」

「けれど?」

「けれど、この放流された『今年の抱負』で戻ってくるのは、ほんの一握り。

 ほとんど大人になれないんだ」

「仕方ないよ」

「うん。新年の抱負は達成するのが難しいからね。

 私も毎年やってるけど、一回も戻ってこない」

「そっか……」


 私たちは遠ざかっていく、書初めを眺めている。

「今年は帰ってくるといいね」

 私がそう呟くと、和子は驚いたような顔でこちらを見た。

 和子はしばらく私の顔を見て、「うん」と小さく呟いた。


 □ □ □


 書初めが見えなくなると、周りの人たちも帰り始めた。

「そろそろ私たちも帰ろうか?」

「そうだね」

 和子の提案に私は同意する。

 私たちは周囲の帰る人たちに混じり、川を離れる。

 この後は和子の家で遊ぶ予定だ。

 和子の両親からお年玉もらえたらいいなあ。

 そんな邪な事を考えてながら、和子とおしゃべりをする。


 と少し気になったことを聞いてみる。

「和子は『今年の抱負』は何にした?」

「遅刻しない」

「無理だな」

「うるさい!

 そっちこそ何書いたのさ?」

 私は少し考えて答える

「サメ映画を見る」


 追伸

 エピソードの更新をした2024年3月27日時点

 今年の抱負『サメ映画を見る』

 今の進歩率は0%です。

 現場からは以上です

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