第4話
「ほらお嬢様、さっさと起きて下さい。」
不意に冷たいものに襲われ目を覚ますと、珍真が水の入った容器を持ちながら立っているのが目に入った。きっと、珍真が起きない私に水をかけたのだろう。
「きゃっ、冷たい。何をするの、止めてちょうだい。」
そう言うも、珍真は水をかけるのを止めてくれない。むしろ、この状況を楽しんでいるように見える。
「ふん。本当に愚図なんだから。ほら、さっさと着替えて下さい。」
服を私に放り投げなげ、嘲笑いながら私に言う。
「着替えさせてはくれないの。昨日まではしてくれたのに」
「何言ってるんですか。着替えくらいもう自分で出来るでしょ。私に頼らないで下さい。」
親の敵かのように私を睨み部屋から出て行ってしまった。
ふと机を見れば、汁しか残っていない皿が置いてある。きっと珍真が私の分の朝食を食べてしまったのだろう。
他の妃嬪達が集まる中でお腹の音など出してしまえば、とんだ笑いものだ。今度こそ罰を受けるかもしれない。
私は急いで着替え、お茶でお腹を満たそうとするが茶器の中は生憎空であった。
「珍真、お茶を持ってきてくれないかしら。お腹がすいてしまって......お茶でお腹を満たそうと思うの」
椅子に座り、珍真にそう伝えると嫌そうな顔をしてぶっきらぼうに持ってきた。
「ありがとう」
礼を言ってお茶を口に入れる。
「熱っ!!」
何これ、熱すぎて飲めたものではない。珍真の方を見てみるとニヤニヤした顔でこちらを見ている。わざとこんな真似をしたのね。
「さっさと飲んで下さいよ。せっかく早く起こしてあげたのを無駄にしないで下さい。何なら、私が飲ませてあげましょうか」
そう言って私を押さえ、無理矢理飲ませようとしてくる。あんなに熱い物が口の中に一気に流れ込めば、大火傷をして皮膚がただれてしまうわ。
「お願い、止めて。どうしてこんなことをするの」
「止めるものですか。お嬢様が生き続けていても困るだけなのです。さっさと自殺して下さい。」
どうやら、私をいじめ抜いて自殺に追い込みたいらしい。やめてと言っても止める気配は無く、逃げだそうにも珍真が逃がしてくれるわけが無い。
もう無理かと諦めていた次の瞬間、珍真が吹き飛び、私にかけようとした熱いお茶が顔や身体にかかり、見るも無惨な姿になっている。
「侍女が主を害そうとするとは何事だ!!」
重低感のある安定した声が部屋に響いた。まさか、この声は。
見ると、この国の父にして天子である皇帝が立っていた。
「へ、陛下。ご機嫌麗しゅう」
自分が思っている以上に怖かったらしい。声がうまく出ず、震えながら挨拶した。
「立つが良い。怪我はないか」
「はい。陛下に救って頂いたお陰で」
実際に皇帝に会うのは、秀女選抜以来の二回目で精悍ながらも調和のとれた上品な顔立ちだ。皇帝に手を貸して貰いながら起き上がった。
「朕の妃たる者が侍女なんぞに虐げられるとは何事か」
「申し訳ありません」
「話はまたゆっくり聞かせて貰う。その前に。誰か、この不届き者を牢へ」
「「「はっ」」」
皇帝の侍従達が珍真を縛り連れて行こうとする。
「ご、誤解です陛下。私はただお嬢様と戯れていただけで、決して悪意のあるものではございません。ねっ、お嬢様ぁぁ」
そう言いながら私にすがりついてくる。
嘘つけよ。自殺しろよってさっきまで迫ってたじゃねぇか。本当に想像通りに動いてくれたわね。
「朕はそんな風には見えなかったがな」
「ですから誤解「朕の言葉を否定するのか!!」
「そんな......お、お助け下さいお嬢様。もう二度としませんし、今後は心を入れ替えます。今までの働きに免じてどうか」
皮膚がただれた姿で懇願してくるが、そもそも珍真って実家にいた時代からサボり魔で有名だったし、こんな目に遭わされて助けようなんて思わない。
「いや、お助け下さいお嬢様。お嬢様ぁぁぁ」
そう叫びながら珍真は連れて行かれてしまった。
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