第2話
「ねえ、珍真。暇すぎない?」
「草むしりでもしたらいかがでしょうか。運動にもなりますし」
珍真は今日も冷たい。無理に後宮に連れてきたのをまだ怒っているのだろうか。
ここ最近ずっと不機嫌である。
「皇帝の妃がやることじゃないわよそれ...はっ......!」
「どうしました?」
「挨拶に行くのを忘れてた」
「何でそんな重要なことを忘れているんですか!?本当に間抜けなんだから」
散々な言われようだが、暴言を言いたくなるのも分かる。
新しく入内した者は後宮の長である皇后様に挨拶をするのが慣例。皇后様への無礼があったならば今度こそ首が飛ぶ。ましてや、忘れるなんて論外である。
「珍真も絶対忘れてたでしょう。あーっもう。実家から果物もって挨拶に行こう。今ならまだ間に合う。」
そう言って、手土産を持って皇后様の住居である
皇后の宮は政務の関係上、皇帝の宮の近くになる。そのため、必然的に私の住居である景和宮から遠い。
全力で走ってやっと令春宮の門が見えてきた。
荘厳で、豪華絢爛の言葉がまるで具現化したかのような数々の調度品。等しく整えられた草木に、美しい花々の香りが漂ってくる。正に皇后にふさわしい宮である。
「そこの侍女さん。皇后様に挨拶したいのだけれど、お取り次ぎをお願いできるかしら。」
「これは
入内して、まだそんなに日も経っていないのに、私のことを認識しているなんて。
流石皇后様の侍女ね。私だったら、記憶力無いから絶対無理だわ。
皇后様の侍女ともなると、良家出身でそこら辺の妃嬪よりも発言力があり、力も持っている。なので、侍女だからといって見下してはいけない。
はぁ。なんだか普段より肩が凝るわね。
「皇后様がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
そう言われて案内されたところには、皇后様が優雅にお茶を嗜われていた。そのお姿は絵から出てきた天女のようで端整な顔に艶やかな黒髪が綺麗で、もうすぐ四十という年齢を感じさせない。
「高慶常在。挨拶に来たのは、あなたが最後よ」
絹のような肌と相手に威圧感を与える眼光が私に向けられた。
「こ、これは失礼しました。皇后様への贈り物をに悩んでいて遅れてしまいました。どうかお怒りなきよう。」
流ちょうに口からでまかせが出てきたことに自分でも驚きながら挨拶の姿勢を取る。
格上の人に失礼が無いよう、小さい頃から作法だけは厳しく鍛えられた。
「まぁ、口が達者なこと。ふふふ。楽にしてちょうだい。」
どうやら、及第点はとれたらしい。少し安心しながら近くの椅子に座った。
この部屋は妃嬪達の集まりにも使われるであろう多くの椅子が細長いこの部屋に綺麗に二列で並んでいる。比べるのはおこがましいけれど、私の部屋と違いすぎだわ。
「珍真、皇后様に持ってきたものをお渡しして」
「かしこまりました」
珍真が皇后様の侍女に手土産を渡す。
妃嬪間のやりとりは侍女同士で行なうというのが慣例だ。慣れないことなので、気が抜けていれば、つい間違えそうになる。
「あなたとは一度ゆっくり話してみたいと思っていたのよ」
皇后様が微笑みを浮かべながら言った。お世辞なのか嫌みなのかいまいちどちらか分からないが、
「光栄です。私なんかで良ければ是非」
普段は聞こえない心臓の音が顕著に聞こえるほど緊張していた私はそう答えるので精一杯だった。
皇后様との会話は世間話ばかりで転んでしまったことを咎められるのではという私の心配は杞憂に終わった。聞き上手であり、ついつい話しすぎてしまったが、不快な様子を一切見せず相づちをつく器の大きさを見て、流石後宮の長であるなと改めて感じた。
「うふふ。今日は楽しかったわ。また来てちょうだいね」
「私もすごく楽しかったです。皇后様がお優しい方で本当に良かった。また近いうちに伺わせて頂きます。今日はありがとうございました失礼致します。」
そう言って立ち上がり、礼をして部屋を後にした。
「あの無礼者を始末せずよろしかったのですか。ご命令さえあれば今すぐにでも。」
「まだ入内したばかりの子にそんなことしないわよ。それにこの後宮は些細な事一つが命取りになる。どこまで生き残れるか見物ね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます