──信じるのです。今まで疑ってきたものを。


 あの日以来、私は妻の言葉を考えた。寝ても覚めても考えた。

 最初は、よく分からなかった。だが機械を作っている最中、ようやく合点がいった。


 つまり、こうだ。

 今の時代の人々は、垣根の向こう側を疑わないと、仕方がない性分だ。

 だから、魔術がある。魔女もいる。私の機械も、無下にされる。

 つまり、そういうことだったのだ。


 何だ。妻は死んでしまったが、妻の言うことの方が、最もらしいじゃあないか。

 私は信じるぞ。お前の言うことを、一言一句。


 私が作業室に籠っていると、時たま弟が顔を覗かせて、心配そうに眉を顰める。


「兄さん、あのさ……。その、籠りっきりは、体に良くないよ」

「体? 心配するな、私はいたって健康そのものだ」

「そう……。それなら、いいのだけれど……」


 私の張り切りが通じたのか、弟はそれ以上深入りはしてこなかった。きっと、弟も喜ばしいのだ。私が機械作りの腕を上げたから。もしかすると、ほんの少し、嫉妬しているのかもしれない。


 信じる。

 信じると、信じるほどに機械ができるのだ。


「できる、できる! 私はできるぞ!」


 ああ、何と気分が良いものか。

 何でもできる、何でもなせる。私にはそれが、はっきりと分かった。


 私は妻に言った。妻は笑っていた。


「今ならば、何でもできる! 何でも作れる、何でも動かせるぞ!」


 手を伸ばし、妻の頬を撫でる。温かく、そして柔らかだった。 


「今なら、お前の望みを叶えてやれる! さぁ、言ってみろ! 何でも作って、叶えてやる!」


 妻は言った。


 ──……を、……て。

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