Ⅰ - Ⅴ
私の帰りがあまりにも遅かったので、弟は玄関の前を行ったり来たりして、ひどく神経を尖らせていた。
「全く、心配したんだよ。やはり僕も、一緒に行くべきだったんじゃないかって……」
「すまない。ロンドンは物珍しくてな、ついつい寄り道してしまった」
彼の不安を解消させるために、私は土産袋を渡してみせた。機械を売った金で、新鮮なりんごと肉、それにワインを買った。
弟は上等な土産品にも驚いていたが、それ以上にコインがじゃらじゃら入った革袋に目を丸くしていた。
「こ、この金額……!! もしかして、特許が取れたのか!?」
「あ、いや……」
──くれぐれも、内密に。
異教徒の声が、頭の中で反響した。
「……特許は、取れなかった」
少し心が痛んだが、適当なことを言ってはぐらかすしかない。
私の弟は純真で、それでいて心配性なのだ。
「だが、陛下は機械に関心を示してくださった。この金で、さらに改良を重ねろと」
だから、自分なりに怪しまれない程度の嘘をついた。
弟はその後も、熱心に色々と話かけてきた。だが私は、ロンドンで起こった不思議な出来事に気を取られていて、ほとんど聞いていなかった。それよりも、金を先に受け取ってしまったが、これから機械をどう引き渡そうか、そんなことばかり考えていた。
だが、それは杞憂だった。
その翌日、靴下編みの機械は、作業室から姿を消していた。
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