地雷系ヤンキーチョロインはとりあえず褒めておけば好きになってくれます。

澄空

地雷系ヤンキーチョロインはとりあえず褒めとけば好きになってくれます。


 隣の席の小鳥遊たかなしさんは、「地雷系」の「ヤンキー」だ。

 その二つって両立するのか?と思った人もいるかもしれない。

 でも、見た目は完全に地雷系のそれ。

 ピンク色で巻かれた髪に、両耳にバッチバチに開けられたピアス。

 色素薄い系の病みメイクに、これは自前のものだけど、八重歯がキラリと光っている。

 制服も着崩され、上にはピンク色のカーディガンを羽織っている。

 それに加えて、膝上のスカート丈は当たり前。

 真っ黒のニーハイに包まれた御御足は今は組まれている。

 まさに校則ガン無視の出で立ち。

 生徒指導の先生に怒られている場面に遭遇するのも珍しくない。




「……」




 小鳥遊さんは、頬杖をつきながら今日も今日とて不機嫌そうに外を見ている。

 顔立ちは整っていて、綺麗なんだけどなぁ……。



「……(ジロ)」


「……!!」


「……何見てんだよ」



 ―――――ヤバい!!

 ジロジロ見すぎた!

 ってか、怖っ……。

 俺は周囲をキョロキョロと見回し、何とか誤魔化そうとするが……。


「お前だよ、お前!!

 ……演技すんな。

 何か用でもあんの?」


「……いや、ははは」


「んだよ、言いたいことあんなら言えよ」


 大きな小鳥遊さんのお目々がギロリと俺を捉える。

 それはさながら蛇に睨まれたカエル。




 ―――――どうしよう。

 適当なこと言ったら殺される。

 間違いなくボコボコにされる。

 でも、この状況を打破できる語彙は、俺にはないっ!!

 黙れば黙るほど目が細くなっていく小鳥遊さん。

 ヤバい。超ヤバい。

 今年で一番脳をフル回転させて言葉を探す。

 でも、何が正解か分からないっ!!!

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。






「……いや、その……小鳥遊さんが綺麗で……」






 思考の果てに、俺は。

 いつのまにか訳分からんことを口走っていた。



「……」


「あ……」





 俺は、俺は一体何を言ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!




 ドンガラガッシャーンと雷に打たれたように背筋が伸びた。

 あれ、これヤバい?

 ヤバいっすよね?

 うん、ヤバいわ。



「……」




 小鳥遊さんからは「ゴゴゴゴゴ……」というオーラが立ち上っているのが分かる。

 あ、ヤバい。

 終わった。

 殺される。

 覚悟を決め、脳内で辞世の句を考え始めた矢先だった。


「……ってみろ」


「……はい?」


「……言ってみろ」


「あの……すいません。もっと聞き取りやすい声でお願いします」


「っ!!! 

 だからぁ!! 

 ウチのどこが可愛いか、言ってみろ!!!」


 小鳥遊さんの顔はゆでだこのように真っ赤っか。

 アレ……?

 怒っているわけでは……ない??

 と言うか、何だその注文。

 小鳥遊さんの可愛いところ……?

 これも返答次第では、無事では済まなそう……。


「えっと……、まず髪ですかね? 

 ピンク色ももちろん綺麗ですけど、巻き髪が素敵です。

 凄いっすね、それ自分でやってるんですか?」


「……!」


「あと……、メイクとか……。それ病みメイクっすか?

 すいません、自分化粧のことよく分かんないんすけど、上手ですよね。

 まぁ、元の顔も整っているってのもあるんですけど、素材を良く生かしているっていうか」


「……!!」


「あと服装も可愛いです。

 ピンクのカーディガンとニーハイとか正直自分結構刺さるって言うか、そういう男子多いと思うんすよ、意外と。

 制服っていう制約はあると思うんですけど、その中で上手く地雷系を表現してて凄いと思います」


「……!!!」


「あとキャラもいいですね。

 地雷系という外骨格に反して中身ヤンキーっていうそのギャップ?っていうんですか?

 控えめに言って最高ですよね」


「……もう良い!!

 もう良いよ!!!

 ごめんね、ウチが悪かったよ!!

 あと、ありがとう!!!」


 小鳥遊さんは顔を真っ赤にさせながら体の前で両手をパタパタと振っている。

 ……これで良かったのか?

 後半もう言うことなくなって、ただの俺の本音みたいになってたけど。



「……」




 小鳥遊さんは、机の上に突っ伏してしまった。

 機嫌は損ねていない……はずだよな?

 褒めてしかいないもんな?
















 と言うわけで、その日の放課後。

 何もするわけでもないし、そのまま帰ろう……と席を立った時だった。


「……(わしっ)」


 隣の席からほっそい手が伸びてきて、俺の手首を掴んだ。

 それが誰のモノかは言うまでもない。

 ……ってか、手ぇしっろ。

 きめ細かっ。

 さすがにヤンキーとは言えど、女の子。

 俺がしばし手に見とれていると。



「……!」



 恥ずかしそうに手を引く小鳥遊さん。



「……」



「……」



「あの……、小鳥遊さん?」



「ちょっと放課後付き合って」








 ***








「うわぁ、これ、超可愛い!!!」


「……」


 目の前のパンケーキをパシャパシャとスマホで写真を撮る小鳥遊さん。

 何だコレ……。

 俺は一体何をしているんだ……。

 ってか、ここどこだ……。

 いかにもオシャレそうなカフェに、俺と小鳥遊さんは来ていた。

 客層を見ると、俺らと同世代ぐらいの女子高生達がウヨウヨ。

 小鳥遊さんは別に違和感が無いとは思うけど、俺は……。

 正直かなり気まずい。


「よし、これでオッケー……、それでは、いただきます」


 礼儀良く手を合わせて、小さな口でパンケーキを頬張りはじめる小鳥遊さん。


「おいひ~い♪」


 ほっぺたに手を当てていかにも上機嫌という感じ。

 ちょっとだけ面白くて観察していたら「何だよ……」と睨まれた。


「食べないの?」


「あ……、はい。いただきます」


 食べないと何か言われそうな雰囲気だったので、急いでナイフとフォークを取り、パンケーキを口へと運ぶ。

 真正面から俺の反応を見ている小鳥遊さん。

 食べずらいんだけど……。

 ぎこちなく、パンケーキを切り、生クリームをこれでもかというほど乗せていざ口へ……。


「……あ、美味い」


 口の中に広がったのは、甘酸っぱいソースと甘すぎないクリームとの調和。

 リアクションを取らなければ……と身構えていたけど、それを忘れるくらいに美味い。


「これ、美味いっすね」


「……だろ!?

 昨日インスタで見つけたんだよ。本当に来て良かった~~~」


 小鳥遊さんは幸せそうに左右に揺れながら、パンケーキを食べている。

 まぁ、そんな顔にもなるわな。

 そんぐらい美味い。このパンケーキ。


「……うまぁ」


 自然と顔がほころんでしまう。


「……そんな顔で笑うんだな」


「これまでそんな無表情に見えてました?」


「うん。能面つけてるみたいだった」


 いやいや、アナタが怖かったんだよ!!

 目を付けられないように俺も必死だったんだ!!

 穏やかな学校生活を死守するためにも、色々と頑張ってましたよ!?

 今日無事にその平和は終わりましたけど!!


「それを言うなら小鳥遊さんも……。

 もっとそんな表情でクラスの皆に接すればいいのに。

 せっかく可愛いんだから」


「かわっ……!?」


 ぐぬぬ……とフォークを握りしめる小鳥遊さん。

 ―――――これは、俺からのお返し。


「だってさ……。どんな話すればいいのか分かんないんだもん」


「目つきも悪いし、地雷系ヤンキーって呼ばれてますよ」


「っ!!

 ヤンチャしてたのは中学までだよ!!

 今はそんな……喧嘩とかしてないっ!!!

 可愛い物とか……好きだから!!!」


 そうだったのか。

 威圧的な態度は昔からの名残。

 今は地雷系が主体であると……。


「小鳥遊さんもそんなに可愛いのに……」


「……!!」


「どこが可愛いと言うと……イテっ」


 ズビシッと俺の脳天にチョップが振り下ろされる。


「……調子に乗りすぎ」


 ワナワナと口を結び、恥ずかしそうに俺を睨み付けている。

 ヤバい。

 ちょっとやり過ぎてしまったようだ。








 ***








「……このお店が美味しくてね」


「へー……、そうなんすね」


「ウチ、このキャラ凄く好きでさー」


「あ、これ知ってる」


「ホントに!? 結構マイナーなんだけど」


「妹がグッズ持ってます」


「え、え、マジで!!? ウチも発売日に買いに行ったんだよね~~~~」


 オサレカフェを出てから、俺と小鳥遊さんは何気ない話をしながら近くの池のある近隣の公園に来ていた。

 だいぶカフェに長居してしまったから、外は既に夕暮れ。

 空も藍色が多くなってきている。


 ……ってか、何か凄いな。

 昨日まで恐れに恐れていた女の子と、遊び(のようなもの)に来ているなんて。

 話して分かったけど、この小鳥遊さんという女の子は、何というか……。

 ―――――すごく、普通の女の子だ。

 可愛い物に目がなく、美味しい物が好き。

 当初の態度も大分柔らかくなっていた。

 中学時代のヤンキーキャラも、自分を守るための防衛本能、的なものだと思う。


「……ねぇ、ちょっと聞いてる?」


「あ、あぁ……うん。聞いてる聞いてる。

 古文の高橋がね、ヅラって話だよね?」


「ぜんっぜん、違う!!」




 マズい。

 考え事をしていたせいで完全に聞いていなかった。


「だからー……、ウチさ欲しいものって絶対に手に入れたいって話」


「あ、あぁ……なるほどね。欲しいもんね~色々と」










「だから……ね?」




 キュッと。

 俺の右手がに握られる感触。

 それが、小鳥遊さんの左手と気付くのに、数秒を要した。












 っ!!!!!!?

 何だコレは。

 一体、何が起きているんだっ!!?

 急激に上昇する俺の体温、それに反して冷たい小鳥遊さんの手!!!

 何!!?

 もしかしてさっきのカフェの仕返し!!?

 すいません、調子に乗ってました!!

 喋ってみたら結構話しやすくて……本当にすいません!!

 もう二度としませんからぁ!!!






「あのさ……」




「……っ!!」




 小鳥遊さんは、上目遣いで俺を見ている。

 ―――――うわ、女子っ!!

 女子じゃん、この人!!!

 やべぇ!!!





「ウチと……付き合って」




「はあああああああああああああ!!!!?」






 いや、何言ってんの!!?

 俺童貞なんですけど。

 女子と付き合った経験皆無なんですけど!!?




「えっと……、一応聞いてもいい?」


「うん」


「……何で?」


 すると小鳥遊さんは顔を、赤らめながらそっぽを向いて。


「ウチのこと……可愛いって言ってくれたから」と呟く。


「そんな理由で……!?」


「女の子は、好きって言ってくれた相手を好きになるのっ」


 ……何だそれ。





「ダメ……?」




 ―――――!!


 またまた瞳を潤ませての上目遣い。

 それズルいって。

 もう、めちゃくちゃ可愛いから止めてくれ……!!


「いや、ダメじゃないけど……」



「じゃあ……、今日からウチの彼氏でいい?」






「……っ!!」



 断る理由もないし……。

 まぁ、それは別に……。

 コクンと頷くと、小鳥遊さんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。



「良かった……」




 繋いだ手が震えてる。

 ……小鳥遊さん、不安だったんだ。




「……」




 褒めただけで好きになるとか……。

 この子、どんだけチョロいんだよ。

 俺同様、意外とそういう経験が無いのか……!?





「……いや、でも俺、付き合うとか分から」








 不意に。



 俺のほっぺたに感じる―――――柔らかい感触。






「……ドキドキした?」


「っ……!!」






 ……本当にチョロいのは、俺なのかもしれなかった。




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