15 「運命の出会い」

 少し季節が進んで、高三の四月になった。受験を控えた私だったが、正直まだ実感が湧いていなかった。それは周りの友達も同じようで、「ついに受験生だね~」「学園祭までは勉強しなくていいよね~」と口々に話していた。


 新学期一日目の朝、昇降口前に自分のクラスを確認しに行った。クラスメートはそこそこいいメンバーだったが、気になるのは担任の先生だった。友人曰く、もともとこの学校にいる人ではあるらしいが、生徒数が多く学級もそれなりにあったためか、名前を見ても顔が出てこなかった。それだけ接点がない人だった。


 始業時刻の八時三十分になった。他のクラスは次々と先生が来ているのに、ここはなかなか現れない。教室のざわめきが一段階大きくなったところで、小走りでやってきた担任がようやくドアを開けた。私は息をのんだ。


「すみません、遅くなりました。ええと、まず自己紹介からしましょうかね」


 年明け前、歴史屋で出会った人とそっくりだった。背が高くひょろっとしていて、色が白く、西洋人と言われても違和感のない顔。ワイシャツにスラックスという出で立ちだが、その上からこげ茶のコートを被せると、そのままあの日の格好になる。私はこのとき初めて、運命というものの存在を信じた。——かれこれ十年は前の話だが、今思えば、高校生までの私は世間知らずだった。偶然がちょっとすぎるからといって、「運命の出会い」なんて甘ったるい言葉を使ってはいけない。あそこで出会ったのがたまたま先生であっただけ、担任になったのもたまたまに過ぎない。社会に出てから、このころの己の無知ぶりがとても恥ずかしくなった。だが、高校三年生の私は、未来の自分がどう思うかなんていうのは当然ながらつゆ知らず、自分の妄想に引きこもっていた。きっと先生を見つめる瞳は、何を見るよりもきらきらしていただろう。


「名前はここにも書いた通り、松田光照といいます。この学年に入るのは初めてで、みなさんとはあまり接点がないというか、文芸部の人は知ってると思うんですが、なにせ授業を持たせてもらうのも初めてのことなので。去年までいらっしゃった小林先生が異動されたので、この学年の配属になりました。高校生活最後の年に『なんだこいつ』ってなったかもしれませんが、みなさんとたくさん楽しい思い出を作りたいと思っています。ええと、担当は国語です。専門は現代文です。このクラスでも現代文を持たせていただきます。古典は西村先生です。たぶん去年一昨年と持ってもらったという人も多いんじゃないでしょうかね——」

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