10 責任の所在
「オンラインで授業とかできたらいいんですけどね~」
数学科兼情報科の男性教員がこぼす。六時間目が終了した職員室は、普段より空気が重く感じられた。
「
鷹瀬高校とは県内一の伝統校かつ進学校で、数年前に改修され、以前の校舎から見違えるほどきれいになったのだった。一方、我が校は要請すれども彼の言う通り「予算がない」と突き返されるばかり。一応耐震工事は行ってもらえたが、「地震や竜巻が来たときどうなるんですか」と生徒にも心配されるほどのぼろさ具合は相変わらず、おまけに情報化社会でスマホやタブレットが身近になってきているのに、一向に積極的に活用できない環境である。パソコンは二クラス分あるが、せいぜい情報科の授業や総合的な探究の時間、学園祭で使うぐらい。もっとも、我々教員の情報端末に対する態度や姿勢がまちまちであるせいも考えられるが、……あまりこういうことは言いたくないのだが、劣悪なインフラが一因であるということは否めない。
少なくとも、県内公立校にこのような格差があるのは事実だ。
「頑張って言ってるんですけどね」
「いや、松田先生は悪くないんですよ。全然。全然悪くない。僕が言いたいのは、お金がないのなら、なんで鷹高にばっかり流れるんですかってことです」
「いろいろあるんでしょうよ、いろいろ」
社会科のベテラン教師が口を挟んだ。
「あっちは歴史が長いし、進学校で優秀な卒業生がたくさんいて、同窓会からの寄付もたくさんしてもらえる。こっちはまだ若手だし、進学実績が上がってきたのも最近で、寄付は多少あるとはいえ、あっちには敵わんのですよ」
「やっぱりそういうことになるんですね」
「そうそう。伝統には勝てない」
「だからってでも、……私立じゃあるまいし」
数学科教師は口惜しそうに、自分の机に向かった。私も席に戻り、いつもこの時間帯なら片付いているはずの業務に取りかかった。
現在、午後四時三十分。『開いた窓』のウケは、あまり良くなかった。
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