9 げんなり
「おはようございます」
「おっ、松田先生。おはようございます。渋滞は大丈夫でした?」
「ええ、ちょうど私が通った後で事故が起きたみたいで。巻き込まれる先生方は多いと思いますよ」
「まいったなあ。打ち合わせには間に合ってくれるといいんだけど」
教頭先生が首の後ろをぽりぽり掻いた。少しぽっちゃりした黒縁眼鏡の似合う彼は、私や校長の良き理解者であり、学校運営にも全力で取り組んでくれる。この人なくして私と学校なし、というのは言い過ぎだろうが、それぐらいお世話になっている人だ。
「幸い、こちらからはほとんど連絡事項はありませんし、先週のうちに総務部の案件は終わっているので、大きな混乱はないと思います。ちょっと帰るのが遅くなるかもしれませんけど」
「それが一番きついんだよなぁ」
互いに苦笑しながら話していると、しんとした職員室に電話がけたたましく鳴った。私は体を伸ばして受話器を取った。
「もしもし、県立
『すみません。
「あっ、おはようございます。教務の松田です」
『おはようございます。今ですね、乗っていた電車が線路内立ち入りで止まってしまいました。いつも通りならすぐに動き出すはずなんですけど、子どもたちも遅れてくると思いますので、始業時間をずらしてください。今ちょっと車内なので、次連絡するときはメールで連絡します』
「わかりました」
『よろしくお願いします』
ふう、とため息が自然に出た。
「保護者ではない……お偉いさんかな」
「ええ、校長先生からです。電車が線路立ち入りで止まったみたいで、始業時刻を遅らせてくださいと」
「はーあ」
温厚な先生も、大きなため息、いやため「声」を発した。
「ま、今日はいいでしょう。先生方も遅刻してくるだろうし。どちらにとっても仕方ないことということで」
「ですね。やむを得ませんからね」
「そうそう」
二人とも軽く頭を抱えながら、それぞれに連絡を回していった。
「今日は電車の遅延と道路渋滞のため、一限の開始時刻を十五分ほど遅らせます。教員と生徒、それぞれの状況によっては、さらにずれる可能性もあるので、今後の連絡に注意してください」
「はい」
結局、予定の時間になっても集まりが悪かったので、もう十分延長して始業となった。その分終業時刻も遅くなるので、教員も生徒もげんなりしていた。
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