第26話 行き倒れの少女
今日一日を振り返ると、ニグルは頭が痛くなりそうだった。
実際に頭が痛いのだ。
先程のハプニングで、額に石をぶつけられたのが原因である。
「いってぇ....あの二人ったら容赦無さすぎだろ」
ついつい悪態をつくニグルは眠ろうと自室のベッドに横になる。
ガチャ。
(ん? 今扉の開く音がしたよな?)
シャーリィたちは隣の空き部屋を使っているはず、だったら何故扉が開けられたのか。
目を向けると予想通り、二人が入って来ていた。
「先生は....寝てる、よね?」
「うん、大丈夫そう、ボクたちが使うはずだったベッドが壊れてたからって、一緒に寝るのは先生が許さないと思うし今のうちに....」
ニグルは必死に寝たフリをする。
(一緒に寝るだって!? これ一人用だぞ....いやまぁ、事前に家具が壊れてないか確認しなかった俺が悪いんだが....)
どうやって二人を部屋に帰そうか悩んでいたが、そんな暇もなく二人はベッドに入ってきたのだ。
「おじゃましま〜す....」
「本当に起きてないよね....?」
次の瞬間、フレイヤが急激に顔を近づけてきた、ニグルの心臓の鼓動は急激に高鳴る。
「目もしっかり閉じてるし、これだけ話してても反応がないってことは完全に寝てるね」
(いいえフレイヤさん、ニグル先生はしっかりと起きています)
しばらくすると両隣からは二人の寝息が聞こえてくる。
同時にいい匂いも....
(どうすんだよこれっ....紳士ニグル・フューリー、理性を保つんだ!! 朝まで我慢するんだよ....)
両目をギンギンに見開きながら、気長に朝を待つ内に彼は凄まじい疲労感に襲われ、結局は眠ってしまった。
同時刻、アルカティア・ウィンブルは隔離階層、封印の箱を訪れていた。
その最下層、とある女が収容されている特別監房の前に立つ。
「監獄の住み心地はどうだ、ボマー」
アルカと相対するのはかつて学院を襲撃し、ニグルたちに敗れた鬼人邪教団の幹部、ボマーであった。
「誰かと思えばおチビ学院長さんじゃない、このお姉さんに何の御用?」
体中を拘束されたボマーは、アルカを見つめると挑発めいた発言をする。
「おチビ....言いたいことは山ほどあるが、妾は貴様ら教団の情報を聞き出すためにここに来たんだ」
「はぁ....囚われの身とはいえ、私は鬼人邪教団の幹部なの、そう易々と話すとでもお思いで?」
あまりにもありきたりな目的を耳にした、ボマーは落胆と共にため息を吐く。
「その両腕を治す、という報酬があってもか?」
「なに....?」
ボマーの両腕は念の為に拘束されているものの指一本動かせない状態であった。
ニグルのウイルスによって壊死しているからだ。
「妾のスカイ・ヒーリングならその両腕を一瞬にして治す事ができる、貴様がそれ相応の情報を話せばな」
ボマーにとっては有利すぎる取引であった。
何故なら彼女は情報を話したとしてもここから出ることは出来ない、だがそれは同時に、情報を漏らしたボマーを消しに来る人間から身を守れるからだ。
「これは取引だ、一生腕が使えないままその監房で生きていくのか、それとも情報を話し、腕を元に戻して快適な獄中生活を送るか、お前が決めろ」
アルカは魔術の壁を一枚隔てた先に居るボマーを見据えた。
「....どうせ出られないし腕を治してくれるのなら話してあげる、でも今は一個だけね、お姉さん今日は気分が乗らないの」
ボマーはどのような理由があってか、一つの情報しか話さないと言うのだ、アルカはその話に少し引っかかったが、情報が手に入るならと思い、追求はしなかった。
「構わないが、貴様だけが得をしても困るしな、十個の情報を言い終わった時点でこの取引は成立、としよう」
「ええ、お姉さんは大丈夫、では聞きたいこと一つ目、どうぞ」
条件を快諾したボマーは、早速一つ目の情報を話す気満々のようだった。
「なら妾が一つ目に聞きたいことは、教団内で魔弾を使える構成員を教えろ」
「教団の中枢に関わる情報を聞かれるとばかり思っていたんだけど、そんなのでいいの?」
すっかり拍子抜けしたようで、ボマーは目を丸くしている。
「先日にニグルが教団の構成員らしき人物に魔弾で狙撃されたのでその犯人を知りたくてな、心当たりがあるならさっさと応えろ、取引は無しにするぞ」
「はぁ、おチビちゃんはせっかちなんだから、でもいいよ....教えてあげる、お姉さんの知る限り、教団の中に魔弾を使える構成員はチラホラといるけど奴らはせいぜい数メートルくらいしか飛ばせないよ、魔弾で狙撃なんて人外みたいな芸当ができるのはあの子だけだね」
ボマーは口角を釣り上げてその人物の名を告げる。
「その子の名前は教団幹部、鬼ノ足 メルトアイズ」
「先生....先生っ! ニグル先生ったら! 早く起きてよっ」
どのくらい寝ていたのだろうか、自らの名前を呼ばれ、ニグルは重い瞼を開ける。
「フレイヤ? どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないよ、シャーリィが朝ごはん作ったから早く食べるのっ!」
頬をふくらませたフレイヤに引っ張られ、ニグルは食卓へと腰掛ける。
パンやらスープが並べられた食卓、そこには既にシャーリィも待っていた。
「さあ先生、今日は休日だけど健康的な時間に起きてご飯を食べようね」
「あ、ああ....」
(休日くらいもっとゆっくり寝ていたかった....)
満面の笑みを見せるシャーリィからはニグルに絶対、不健康な生活はさせない、という意思がひしひしと伝わってきた。
「さあ、冷めないうちに食べちゃお」
『ドサッ』
気を取り直して朝ごはんにありつこうとした三人だったのだが、家の外で何かが倒れるような音がしたのだ。
「なに、今の音?」
フレイヤがいち早く音に気がついたようだった。
「外からかな....」
「俺が見てくる、お前たちはそこで待っててくれ」
何があるか分からないのでニグルが様子を見に行くことにした、ゆっくりとした足取りで玄関に向かい、扉を開けるとそこには。
「お....な....か....へった....あ....」
道のど真ん中に、幼い女の子がうつ伏せで倒れていたのだ。
桃色の髪に、民族衣装のような服、そして一層目を引いたのは、特徴的な長耳であった。
「ん、そこの白髪....あたしにご飯を恵んで欲しい....」
震えながら顔を上げる少女の目は真っ直ぐとニグルを見ていた。
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