第23話 教育的指導(鉄拳制裁)
「少しここで待っててね、私は残った仕事を片付けてくるよ」
「シャーリィちゃん....気をつけてね....手負いだとしても彼女は強い....」
フレイヤを近くの木の根元に寝かせたシャーリィは、オラヴィスを追い詰めるために行動を開始した。
(オラヴィスはかなりの出血だった、ならこの血痕を辿ればいずれ追いつく....)
シャーリィは地面に点々と付いている血痕を辿り始めた。
「みんなを傷つけた挙句、フレイヤまで....オラヴィスは必ず私の手で....殺す」
シャーリィは今まで見せたことの無いような殺気を孕んでいた。
一方、ニグルの方にも動きがあった。
彼はジンと共にフォルネウスがいるであろう地下室へ足を踏み入れたのだ。
そこには当事者のフォルネウスと、魔術師ゲネリオが佇んでいた、そしてその奥には青く発光する異様な魔法陣が描かれていた。
「見つけたぞフォルネウス....随分と鮮烈な歓迎だったな」
「....どうしてこんなことをしたんですかフォルネウス....全て説明してもらいましょうか」
二人は同時にフォルネウスを問い詰める。
しかし返ってきた言葉は唾棄すべき理由であった。
「そりゃあ....俺のことを舐め腐ったニグル・フューリーに骨の髄まで思い知らせることだよ!! テメェが侍らせているあの女二人を殺しちまってな!」
あまりにも身勝手極まりない理由と発言、さすがのニグルも怒りを隠せなかった。
「この野郎....あの二人は関係ねぇだろ!!」
彼は腹の底から大声を出す。
しかしフォルネウスは怯みもせずに口を動かした。
「はっ! 俺はあの二人の秘密を知っているんだぜ、片方は薄汚ねぇ鬼人の生き残り、そしてアンタは知らないと思うがもう片方は研究者に体を弄くられまくった実験動物なんだぜ? 両方ともマトモな人間じゃねぇんだよ!!」
薄気味悪い笑顔で淡々と語るフォルネウス、その存在は不快感を催すほどだった。
「なんてことを言うんですかフォルネウス! 直ぐに撤回しなさい!」
罵詈雑言の嵐に耐えきれなくなったジンは今まで見せたことの無いような剣幕で叫ぶ。
「アンタもだよジン先生、俺はアンタがずっと嫌いだった、崇高な貴族サウザー家の俺に対していっつも上から目線でよォ!」
理性のタガが外れたのか、本音を手当り次第にぶちまけるフォルネウスだったが。
「もういい、テメェはもう喋るな....」
彼を制止したのはニグルだった。
「これが最後の忠告だ、今すぐワールド・ロックを解除して、くだらねぇマネをしてるお前の部下を引っ込めろ」
ニグルは最大限に殺気を引き出して忠告したのだが。
この手の悪人が、それくらいで負けを認めるはずなど無かった。
「誰がそんな忠告を聞くかよ! ゲネリオッ!この部屋の罠を起動しろっ!」
「坊ちゃん、了解だ、さぁ出てこい....」
ゲネリオが設置型魔術を一気に発動させるために、床に描かかれた小さな魔法陣に手をかけた。
しかし、魔術は一つも発動しなかったのだ。
「ふぅ....私がその可能性を潰していないとでも思いましたか? アイス・コーティング、この部屋全体の壁を氷で包み込んでおきました、これで術式は上手く作動しないでしょう」
「なんだと....!?」
ゲネリオが慌てて辺りを見回すと、薄くではあるが壁全体が氷で覆われていた。
「ちくしょう....俺の最後の手段が....オゲェ....!!」
突如、ゲネリオが口からおびただしい血を吐き出したのだ。
「な、なんだごれは....」
ゲネリオは意味がわからず、困惑した表情を見せた。
そんな彼にニグルが言い放つ。
「俺の禁忌指定魔術ウイルス・メイカーだ、この地下に入った時にお前たちの体にウイルスを仕込んでおいた、そのウイルスの効果は、魔術を使用すれば全身から血を吹き出して死ぬ」
「そ、そんな.....オゲエエエエエエ!!」
その次の瞬間だった、ゲネリオは全身の穴という穴から血を吹き出して、動かなくなった。
「ひいっ! げ、ゲネリオッ! 立つんだ! こ、この役立たずがッ!!」
死んだ味方に対しても、汚い言葉を浴びせるフォルネウスに、ニグルは心底呆れていた。
「いい加減にしろよ、お前」
そして瞬く間に距離を詰め、固く握った拳を彼の顔面に打ち込んだ。
「ぐがぁぁっ....でめぇ....サウザー家の御曹司に手を出して、タダで済むとでも....」
「あぁ、親父はお前のことを勘当するってよ」
完全にハッタリであったが、今の奴になら通じるだろう。
「う、嘘だ....そんな....ぐうっ....クソぉぉぉぉ! まだこれじゃ終わらねぇぞ!!」
フォルネウスは懐から注射器のようなものを取り出す。
そして容赦なく自らの腕に突き立てようとしたのだ。
「あっ!!」
しかしすんでのところでジンが、その注射器を奪い取った。
「これは....なるほど、自らを魔獣に変異させる薬品ですか....あなたには聞きたいことが増えてしまったようですね」
ジンは優しくも恐ろしいような異様な表情を見せる。
「ということで今から教育的指導だ、歯を食いしばれ....」
「ひ、やめてくれっ! やめ....」
「罪もない生徒を殺そうとしやがって! このクソ外道野郎がッ!!!!」
ニグルは再びフォルネウスの顔面に鋭い拳を叩き込んだのだ。
「ぐがぁぁぁぁっ!! ぐっ....げ」
床を激しく転がったフォルネウスはピクピクと痙攣した後、昏倒した。
「お疲れ様です、ニグル先生、ワールド・ロックは解除しておきました、フォルネウスを連れて早く学院に帰りましょう」
ジンは既にワールド・ロックの元である魔法陣を破壊していた。
相変わらずの仕事の速さに、ニグルは関心するのだった。
先程、痛めつけられた苦痛に耐えながら、シャーリィは血痕を辿って歩き続けた。
そして森の中にある開けた場所に、オラヴィスは立っていた。
「一人で来ましたか、シャーリィ・ミィル・チェルスター」
腕を切り飛ばされた箇所は止血したのか、包帯で巻かれていた。
「あなたはもう終わり、ここで私が息の根を止めてあげる....」
シャーリィは最大限の殺気を彼女にぶつける、しかし、オラヴィスは逆に笑い声を上げたのだ。
「アハハッ....先程までやられっぱなしのあなたが私を殺す? 寝言は寝て言ってください、やっぱり素人の考えは分かりませんね」
「うるさい....そんなこと、とっくに分かってるよ、だから私は、私の力を最大限に使うの!!」
周囲の魔力がシャーリィに向けて収束し始める。
それと同時に彼女のツノの輝きは激しさを増す。
そして指の爪は異様に伸びていた。
その姿こそ、真の鬼人族であった。
「鬼人としての力を解放しましたか、ですがあなたは戦闘において素人なのは変わりない、ここで忌まわしき鬼人族の血を絶やしてしまいましょう!!」
オラヴィスも負けじと、魔力を取り込む。
彼女の周囲には無数の魔法陣が展開され、臨戦態勢は万全であった。
「見せてあげますよ、雷魔術の真髄ってやつを!」
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