第22話 罠の魔術師

 フォルネウス邸の中は思った通り、設置型魔術で溢れていた。


「こんな狭い廊下で鉄球とか嘘だろおおおお!! ジン先生なんとかしてくださいよ!!」


「あれは防御魔術がかけられているようで破壊は不可能です!!」


 現在、二人は長い廊下に差し掛かったところでなんと巨大な鉄球が出現。

 ソレは彼らを押し潰すために転がってきているのだ。


「ハァ....ハァ....あっ、あそこに扉が!」


 二人は突如出現した扉にギリギリで滑り込む。

 どうやら難は逃れたようだ。


「まさかフォルネウスがあそこまでの策を講じているとは....予想外でした」


 ジンはため息を吐きながら、大きくズレたメガネの位置を直す。


「明らかに手練の魔術師がいる....恐らくフォルネウスと共に地下に潜んでいるやつが魔術師だろうな....ん?」


 その時、天井付近から鈍い音がする、上を見てみるとそこには驚愕の光景が広がっていた。


「これは....マジで言ってるのか....」


「ええ、天井が....下がってきてます」


 なんとニグル達の居る部屋の天井が徐々に下がってきているのだ。


「早急に脱出します....赤の射線よ、貫け、フレイム・ショット!!」


 スペルを詠唱したジンの指に魔法陣が展開、そこから音速を超える炎の弾丸が入ってきた扉に目掛けて撃ち出された。


 しかし、その弾丸は謎の壁に阻まれ消失してしまう。


「くっ....またしても高度な防御魔術....仕方ないですね、ニグル先生、私が術式を解析して紐解きます、それまで下がってくる天井を何としても抑えててくださいっ!!」


 ジンは魔術のかけられた扉にゆっくりと触れる。

 彼がこれから行おうとしていることは、魔術を構成する術式を手で干渉することで読み取り、根元から解除するというものだ。

 この技術は魔術というものの構成、スペルの仕組みを根本から理解していなければ到底使えない芸当だ。


 ニグルにはこんな人智を超えた技術は使えない、彼は大人しく天井を抑えることに徹する。


「わ、分かりました! 我が手に人の身を超えた力を与えよ....フォース・フィンガー!」


 拳を強化する魔術をかけ、ニグルは天井を力のみで抑え込む。


(なんて力だ....ただの天井ではなく魔術による力で押し潰している....もって三分ってところか)



「ヒヒッ....奴らを例の部屋に閉じ込めたぜ、ジン・ロービスが解析を行い、ニグル・フューリーに力で抑え込ませているようだがそう長くは持つまい」


 ゲネリオはいやらしい笑みを浮かべる、その表情は勝利を確信していた。


「よくやった! ゲネリオ、ここで奴らを始末出来れば計画はより円滑に進むぞ」





 ジンは極限まで感覚を研ぎ澄ませていた。


(これは高度に編まれた術式....紐解くのは困難だが、どこかに全ての術式を解ける箇所がある筈だ....)


 術式というのは、綺麗に糸が絡まるようなイメージである。

 故に最初に絡ませた糸を見つけ出せば一気に紐解く事が出来るのだ。


(考えろ、考えるんだジン・ロービス....)



「くっそ....このままだと本当にやべぇ....既に腕が軋みをあげてやがる....ジン先生っ! まだですか!?」


 腕にかかる圧力は強化魔術では耐えきれず、彼の骨にはヒビが入り始めていた。


「すみません、もう少し待っててください....残り三十秒くらいです....」


(この場所は....いやダメだ....安易に触れれば更に複雑に絡まる可能性が高い....ならここは....?)


 ジンは微かな手応えを感じる、もし失敗すれば二人ともペシャンコ確定だ、異様な緊張感に包まれながらも、ジンはやっとの思いで掴んだ希望の糸を引っ張る。


「よし、ここですね! 術に絡まりし糸よ、我が手により、紐解きたまえ!!」


 その瞬間だった。


『パキンッ!!』


 ガラスが割れるような音と共に扉にかけられた防御魔術は解除された。


「解除成功です、早くこちらに!!」


「や、やっとか、ぐうっ! 完全に折れたなこれは....」


 ニグルは咄嗟に両腕を引っ込め、扉に向かって滑り込む。


『ズゥゥゥゥン!!』


 重苦しい音と共に、先程までいた部屋は天井によって押しつぶされる。


 部屋から飛び出すタイミングはギリギリの紙一重であった。


「ハァ....ハァ....大丈夫ですかニグル先生」


「腕が折れちまいましたが押しつぶされるのに比べれば可愛いもんです....本当に危うくになるところだったぜ....」


「フフッ、全くですね」


 二人は協力し、危機を脱したことで笑顔を見せ合う。

 数時間前までいがみ合っていた者同士とは思えないほどに。


「罠だらけの館であまり同じ場所に留まり続けるのは危ない、とにかく先を急ぎましょう」


 二人は素早く体を起こして、歩き始める。


 その瞬間、どこからともなく火や氷の矢が飛んできたが、二人は難なく躱した。


「「もうその小細工は通用しねぇんだよ(しませんよ)」」



 両者は地下への道を再び探し始めた。



 それから十分後、二人は襲い来る罠の数々を破壊し、徐々に地下へと近づいていた。


「この先から敵の反応を感じますね」


 ジンは探知魔術によって入口を発見したのだ。


「こんな古臭い扉の先か、行きましょう」


 扉の軋む音を立てながら、二人は地下へ足を踏み入れた。




「クソっ! 俺の渾身の作戦が....もう設置型魔術のストックが無い、奴らはもう地下に入ってきているというのに!!」


「ゲネリオ、心配するな、まだ奥の手はあるぜ....」


 フォルネウスは懐から注射器のような物を取り出した。


「坊ちゃん、まさかソレは!?」


「ああ、ある魔術が込められた薬液だ....最悪これを使って奴らを殺す....!」



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