第21話 過去の過ち
「ボクはあの力で、初めての親友を殺しちゃったんだ....」
フレイヤの口から飛び出した突然の告白に、シャーリィは目を丸くする。
「親友を殺した....? もし良かったら私に詳しい話を聞かせてよ」
「うん分かった、ちょっと長くなるけど....」
遡ること三年前、フレイヤはエンバース魔導国の魔術研究所に収容されていた。
彼女は生まれながらに魔術の才能が常人よりもかなり乏しかった為、実の親に売られたのだ。
その研究所でフレイヤは一人の少女と出会い意気投合する。
「....今日も明日も実験か....この生活にも飽きてきたよ....」
大きめの部屋に収容されていたフレイヤはついつい本音を零してしまう。
そんな彼女に話しかける少女がいた。
「ねえねえフレイヤちゃん、研究員さんに聞いたんだけどわたしたちって魔術の適性が低いでしょ、もしこの実験が上手くいったらわたしたち、とても強い魔術が使えるようになるらしいんだよね!!」
彼女の名はレーナ・ユピタル、フレイヤと同じく親によって研究所に売り飛ばされた少女だった。
「えっ、このよく分からない実験ってそういうことなの!? ボクたちでも簡単に魔術が使えるようになるって....なんか楽しみだな」
毎日、よく分からないスペルを唱えさせられ体に負担をかけていた、この実験にも明確な目的があると知り、自然と笑みが零れる。
「でさっ、もしここを出られたらだけど....わたしと二人で魔術学院に通って、その後はフレイヤちゃんと一緒に魔術師として色んな人を助ける旅に出ようよ! ねっ、面白そうでしょ?」
レーナは美しい金髪を靡かせながら、満面の笑みを浮かべた。
「その為にはボクたちは頑張らないとね、お互い実験を成功させてここから出よう、約束ね」
「うんっ約束だよ、フレイヤちゃん!」
この日からフレイヤは希望に満ちていた、親友と呼べる少女レーナの存在と、研究所を出た後の輝かしき未来を。
しかしそんな日々は虚しくも打ち砕かれることになる。
お互いに約束した日から一年が過ぎた。
その日は朝から研究所内は輪をかけて騒がしかったのだ。
フレイヤも慌ただしい声や物音を聞き、目を覚ました。
「なんなの一体....まだ五時だよ....?」
ベッドから起き上がると、フレイヤはあることに気がついた、なんと隣のベッドで眠っているはずのレーナの姿が無いのだ。
「えっ....レーナっ!? どこなの! レーナッ!!」
必死に呼びかけるも彼女の姿は見えない、その時だった。
「ぎいいいいいがぁぁぁぁぁぁ!!」
甲高い悲鳴のような声が聞こえた。
「この声....まさかレーナ!? 開けて! ここを開けてってば! あの子はどこなの!? ねえってば!!」
しかし近くに職員は居らず、フレイヤの声は誰の耳にも届かなかった。
一時間後、一人の職員がやってきた。
いつもフレイヤの実験を担当している研究員だった。
「出ろ、今日が最後の実験だ」
「は、はい....あっ、あのレーナはどこに....?」
思わずフレイヤは尋ねてしまう、しかし返ってきたのは沈黙だった。
「....」
そして彼に連れられてやってきたのは巨大な魔法陣が床に描かれた部屋だった。
そしてその魔法陣には大きく6の数字が血で描かれている。
「その魔法陣の中央に立つんだ」
フレイヤは後ろ手に錠をかけられる、もうここから逃げることは不可能であった。
「六番被験者と悪魔の融合を開始します、大いなる魔の存在よ、彼の者と融合し、力を示したまえ....」
一人の研究員がスペルを読み上げた瞬間だった。
「うっ....あがっ....いぎいいいい!!」
フレイヤの体は軋みを上げ、その場で痙攣し始める。
続いて彼女の頭には異常なほどの負荷がかかり始めた、急激に脳が押しつぶされるような感覚、幼い少女には耐えられるはずもなかった。
「ああああっ!! 誰がぅ! たっ....助け....」
その言葉と共に彼女の意識はブラックアウトした。
どのくらい経ったのか、フレイヤは完全に意識を失っていたようだ。
「....ボク、どうなったの....?」
目を覚ますと、部屋に戻されていた。
なんだか嫌な予感がしたフレイヤは部屋の隅にかけられていた鏡を覗き込む。
「な、なにこれ....ボクの目が....」
フレイヤの左目には6という数字が刻まれていた、意味が分からない、こんなものは前までなかったからだ。
後に聞いた話によると、この研究所で行われていた実験はナンバー・デーモンと呼ばれていた。
これは魔術の適性が低い子供に、悪魔を降ろす魔術をかけて大きな力を与えようとするものであった。
後に魔導国政府によって摘発されることとなるが、それまでは多くの子供たちが犠牲になったと言われる。
そして気になるレーナの動向だが、二人は直ぐに再開することになる。
一日経った後の事だ、フレイヤは研究員にあの魔法陣の部屋に連れてこられた、しかし彼女がいた場所とは違い、魔法陣には5の数字が刻まれている。
そしてその上には鎖で体を縛られたレーナが横たわっていた。
明らかな異常な光景に、フレイヤは声を上げる。
「レーナ! 彼女に何をしたのっ!?」
「あっ....フレイヤちゃ....はぁ....はぁ....」
レーナはかなり息が上がっている、今までかなり体に負荷がかかったであろうことが容易に分かった。
「彼女は適合しなかっただけだ、そして命令だ、あの子を殺せ、No.6 フェニックス」
全くもって知らない名前で呼ばれるフレイヤ、しかし脳はそれを理解していたのだ。
「嫌だよ! なんでレーナを殺さないといけないの!? 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ....うぐっ....コロジダグ....ナ....」
徐々に意識が薄れていくフレイヤ、そして彼女の意識は移り代わった。
『6番の拘束解除を確認、ナンバー・デーモン起動します』
その言葉と共に、彼女の背中から赤褐色の翼が生えた、そしてその翼は真っ直ぐレーナに向かっていき。
「やめて....わたし、死にたくない....嫌だ....ぐぼっ!!」
その小さな肢体の心臓を刺し貫いた。
『敵性個体の破壊を確認、フェニックス活動停止します』
機械的な声と共に、翼は消失、フレイヤは放心状態のまま崩れ落ちた。
「よくやったNo.6 失敗作の処分ご苦労」
彼は非情に言い放つ、フレイヤは自らの膝に倒れ込むレーナを見つめたままだった。
「....フレイヤちゃん....ごめん、わたしが期待させるようなことを言っちゃったからだ....この実験に希望なんてなかった....ゲホッ!! だからお願いがあるんだ....わたしの代わりに....沢山魔術を勉強して....その後にこの世界を見て回って....約束だ....よ....」
その言葉と共に、レーナの体から力が抜けた。
「レーナ....? 嘘....嘘だよ....ボクを置いてかないで、いやあああああああああ!!!」
フレイヤはその場でいつまでも泣き続けた、親友の遺体を抱きながら。
その後は、数日後に乗り込んできた政府の魔術師団により研究所は摘発、実験に関わっていた研究員は全員囚われた。
子供たちで生き残ったのはフレイヤだけであった。
その後、とある伝で引き合わされた保護者というのがアルカティア・ウィンブル、人外と呼ばれる程の魔術師であり、ヴァルガード魔術学院の学院長であった。
「君がフレイヤ・ティラベルか、今まで辛かっただろう、悲しかっただろう、だがもう安心だ....妾がいい場所に連れて行ってやる、君と君の親友が行きたかった場所に」
そういう経緯を経て、フレイヤは学院都市ヴァルガード移る、そしてアルカのコネで学院に通うことになったのだった。
ここまでの話を聞いたシャーリィは、胸が締め付けられそうだった。
「酷すぎるよ....そんな実験....人間がやることじゃない....」
自らの生い立ちと同様、理不尽に塗れており、シャーリィは怒りを隠せないでいた。
そしてフレイヤをしっかりと抱きしめる。
「彼女の代わりになれるか分からないけど、私はいつまでもフレイヤの友達だから....」
「うん....シャーリィちゃん....聞いてくれてありがとう....なんか話したらスッキリした」
胸の内に隠していた話を吐露したことで気が済んだのか、フレイヤは先程の辛い表情とは一転、口角を上げ、笑みを浮かべていた。
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