第20話 フォルネウス・サウザー

 学院都市の一角に聳える巨大な館、ここがフォルネウス・サウザーの住居だった。


「本家でもないのになんてデカさだよ....」


「サウザー家は各国にパイプを持つ大貴族ですからね、我々と比べ資金力もとんでもないのでしょう」


 ジンが言うには、サウザー家は古くから様々な国と関わりがあり多彩な事業を展開してきた、それにより資金力は膨れ上がったのだと言う。


「私は彼の父上ともお会いしたことがあるのですが、とても立派な人でしたよ、魔術師としても人としても素晴らしかった、しかし三男のフォルネウス、彼がどうしてここまで歪んでしまったのかはやはり気になりますね」


「そんなのは関係ないですよ、彼がくだらない魔術を使ってウチの生徒の命を脅かしているなら教育的指導あるのみです」


 ニグルは拳を握り、館の扉を開けたその瞬間だった。

 なんと中から魔術で生成された無数の炎の矢が飛んできたのだ、それは真っ直ぐと二人に向かう。


「鉄壁よ、我らを守護したまえ、ライト・シールド!」


 すかさずジンが防御魔術を展開する。

 炎の矢は全てシールドに阻まれ、四散した。


「ジン先生....どうやら一筋縄じゃいかないようですね」


「ええこれは設置型魔術ですか....やはりここにワールド・ロックの核があると見て間違いないでしょう」


「入口の時点でこれなら....おそらく中は設置型魔術だらけ....」


 ここがフォルネウスにとって最重要拠点なのだろう、容易に想像が出来た。


「我が領域の魔の力よ、探知せよ」


 ジンが探知魔術を発動させる。

 フレイヤが使っていたサーチ・フィールドなのだが、実はジンが独自にスペルの改良を施した物である、索敵に加え、魔力の流れを感じ取ることも可能だ。


(ジン・ロービス....元エンバース魔導国の筆頭魔術師....噂には聞いていたがとんでもねぇな、既存の魔術の改変なんて並の魔術師じゃ到底不可能だ)


 そんなことを考えていると、ジンがあることに気がついた。


「地下から大きな魔力の流れを感じます、おそらくそこが核のある場所でしょう、それに敵の数が地下に集中してますね」


「ということは地上は罠だらけ....か、地下の場所が何処かも分からないのにキツイな」


 ニグルは先のことを考えると、ついつい悪態を吐きたくなる。


「行きましょうニグル先生、彼を止めないと生徒たちが危ない」






「先公が二人入ってきたか....一人はニグル・フューリーとジン先生ッ!? まさかとは思っていたが奴が出張るなんて....」


 魔力に満たされた地下で、酷くフォルネウスは取り乱す。

 ニグルならまだしも、天才と呼ばれる魔術師、ジンが来ることが想像出来ていなかった。


「ワールド・ロックを維持する魔法陣....これが破壊されれば計画も、俺の人生も終わりだ....ああクソっ!」


 必死に頭を抑える彼の傍らには一人の魔術師が控えていた。


「坊ちゃんそう慌てなさんな、ヒヒッ....俺の罠の引き出しは無限、そうそうここまで来ることは出来ないさ」


 一際背の低い白ローブの男、一見不健康そうな見た目とオーラを放っている。


 彼はサウザー家に仕える魔術師の一族、シルバー閃光・グリントの魔術師であるゲネリオ・ロフト、オラヴィスの弟で設置型魔術を得意とする姑息な男だ。


「そうだよな....オラヴィスがシャーリィとフレイヤを殺すまでの辛抱だ、そこまでここを守り切れば奴らも撤退するだろう....その隙に乗じて俺たちは本家へ逃亡する、完璧な計画だ」


 フォルネウスはほくそ笑む、しかし彼は分かっていなかった、ニグル・フューリーという男の恐ろしさを。





 その頃、シャーリィは有り得ない光景を目にしていた。


 赤い魔法陣の上に立っているオラヴィスは動きが先程よりも数段鈍くなっていた。


「体が重い....これは中々キツイですね」


「フェニックス、敵性個体の破壊を開始」


 フレイヤの背中から生えた赤い翼から凄まじい量の羽がオラヴィス目掛けて飛んでいく、ソレは空中で業火を纏い始めた。


「まずいですこれはっ....水の精よ、壁を創造し、我を守護したまえ....アクア・ウォール!!」


 オラヴィスは業火から身を守るため、水の壁を作り上げる。

 しかし非情にも、業火の羽は水を蒸発させ、次々と水の壁を貫通する。


「うがああああっ!!」


 そしてオラヴィスに命中した羽は彼女の体を燃え上がらせた。


「対象の生命力減少を確認、次の攻撃に移ります」


 フレイヤが右手の指をクイッと上に向けると、オラヴィスの立っている地面から無数の赤い棘のようなものが飛び出してきた。


「うぐっ!! 足が....」


 棘は深々と彼女の両足を刺し貫いてしまう。


「この....化け物が....舐めないでください! スパーク・ショット!!」


 オラヴィスの指から雷の魔術が迸る、それは真っ直ぐとフレイヤの元へ向かっていった。


 バチンッ!!


 オラヴィスが放った起死回生の魔術はフレイヤの頭部に命中。


「....脳への電撃攻撃をかくににんんん....フェニックス、維持不可能グギ....最後の攻撃を実行、フェニックスの絶槍....」


 そう呟いたフレイヤの手のひらに魔法陣が展開され、そこから赤褐色の長大な槍が飛び出した。


 次の瞬間、オラヴィスの右腕は槍によって失われた。


「うああああ!! ぐぅ....やってくれましたね....一時撤退しますっ!」


 右腕を失ったオラヴィスは身体中を駆け巡る痛みに耐え、この場から逃走した。


「敵性個体の破壊に失敗いぃ....一時活動停止」


 そして赤褐色の翼は消滅し、フレイヤはその場に倒れた。


「フレイヤっ! ねぇフレイヤ!! 目の開けてっ!」


 シャーリィは必死に呼びかける、フレイヤは重い瞼を開けた。


「シャーリィちゃん....? 見たでしょ、ボクは魔術実験によって体を作り替えられた実験動物なんだよ、こんな化け物嫌だよね....」


「うるさいっ....こんな無茶して! とにかく大きな怪我がなくて良かった....本当に」


 外傷も大したことの無いフレイヤを見ると、シャーリィは次第に涙が溢れてくる。


「あ、あれ....敵の魔術師は?」


「逃げたよ、フレイヤの力で重傷を負わせたから」


「そっか....ボク、また暴走しちゃったんだ....もう使いたくないんだよね、あの力は」


 フレイヤは悲しげに語る、その表情は悲壮感に満ちていた。


「ボクはあの力で、初めての親友を殺しちゃったんだ....」


 フレイヤから語られたのは衝撃的な過去であった。

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