第19話 断絶された地にて
「なにか様子がおかしい....」
ニグルはえも言えぬ違和感を感じていた、先程から生徒同士が激突しているのにも関わらず実技場が静かすぎるのだ。
「確かに様子が変ですね....ちょっと私の魔術で実技場の様子を見てみましょう」
ジンも同様に違和感を感じたようであった。
「我が領域の魔の力よ、探知せよ」
スペルを読み上げるのと同時にジンはカッと目を見開く。
「何か分かりましたか?」
「大変です、ほとんどの生徒が負傷しているようです....それに侵入者が数人、紛れ込んでいますね」
それを聞いたニグルは一気に青ざめる、なぜなら、またシャーリィを狙って教団が攻めてきたと思ったからだ。
何も言わずに実技場に入ろうとするニグルだったが、なんと見えない壁に阻まれたのだ。
「なんで入れなくなってるんだ....くそっ魔術かよ」
ニグルは苛立ちが募り、つい見えない壁を拳で叩いてしまう。
「これは結界魔術ワールド・ロック....中々大掛かりな魔術を使ってきましたね」
「このままだとシャーリィたちが危ねぇ、直ぐに学院長を呼んできます」
学院長室に向かって駆け出そうとするのだが、幼くも威厳に満ちた声が聞こえた。
「ふん、妾は既に来ているぞ、しかしこれは参ったな....ワールド・ロックは魔術の元を絶たない限り解除することは出来ないぞ」
アルカは危機を察知して、直ぐに来ていたのだ。
しかし彼女の口から告げられたのは、一筋縄ではいかないと言うことだった。
「ならどうすれば....待てよ....ジン先生、フォルネウスは今日登校しています?」
明らかに申し合わせたかのような異常事態、ニグルはこれが教団の仕業とは思えなかったのだ。
「彼は体調不良で数日休んでいますよ....なっ、まさか」
そして次に容疑者に上がるとすれば、この間シャーリィに絡んでいたフォルネウスだった。
「分かりましたよね、ジン先生....サウザー家、厳密にはフォルネウスが住んでいるところへ一緒に来てくれませんか?」
彼が家で魔術を発動させている可能性に行き着いたのだ。
「ニグル先生、私も彼の暴走については聞いています、一時の感情でこんなことをしでかす奴には指導が必要です」
ジンはメガネをクイッと直しながら淡々と答える。
「なんだ? 魔術の元を潰してくるのか、正規の教師とアルバイトの教師、二人はウマが合わないと思っていたんだが、仲良く出来そうだな!」
アルカは二人のやり取りを目にするとニンマリとした笑顔を見せる。
「「それは無いです」」
しかしウマが合わないのは本当で、一時の協力関係なので二人は全力で否定しておいた。
「....シャーリィ、フレイヤ....俺が魔術を解除してくるまで死ぬなよ....」
ニグルはシャーリィたちが囚われている鳥籠を一瞥すると、ジンと共にこの場を後にした。
その頃、シャーリィ達は謎の魔術師たちによって一方的な攻撃を受けていた。
「どうしました? 私と戦うと言っておいて、こちらにすら来れていないじゃないですか」
「火の精よ、火球にて敵を焼き払え! フレイム・ボールっ!」
火の魔術で応戦するフレイヤだったが、オラヴィスの取り巻きは相性最悪な水の魔術を使ってきたのだ。
「水の精よ、浄化せよ、ウォーター・スプレッド」
フレイヤの放つ火球は、無情にも水によって打ち消されてしまう、そのタイミングで相手がナイフを投擲してきたのだ。
フレイヤはその凶刃を肩に受けてしまう。
「ああッ!!」
途端に膝を着くフレイヤ。
戦力差は歴然であった。
シャーリィは先程、オラヴィスの雷で撃ち抜かれ、体に走る激痛に耐えかねていた。
オラヴィスは、先程から取り巻きの魔術師に相手を任せ、高みの見物をしている。
「この卑怯者....前に出て戦いなさいよ!」
シャーリィは理不尽に耐えかね思わず叫ぶ、しかし返ってきたのは嘲笑であった。
「フフ、殺し合いに卑怯もクソも無いですよ、本当に素人は考えが甘すぎますね」
その言葉と同時に取り巻きが魔術を放ってくる。
「風の刃よ、眼前の敵を削れ、ウィンド・スライサー!」
「うっ....」
風の刃は容赦なく二人を襲い、徐々に体を削っていく。
二人はうつ伏せに倒れてしまう。
決闘と殺し合い、オラヴィス達とシャーリィ達では立っている暴力のステージが違いすぎたのだ。
「フレイヤ....大丈夫....?」
「....痛くて痛くて大丈夫なんかじゃないよ....ボクたち、ここで死ぬのかな....」
「諦めちゃダメ、まだ何か助かる道が....」
必死に諭すシャーリィだったが、オラヴィスの無慈悲な攻撃が彼女を襲った。
「死に損ないがうるさいですね....雷よ巡り、苦痛を与えよ、スパーク・サイクル」
「あああああっ!!!」
雷の魔術がシャーリィの体を駆け巡る、彼女は苦しみに耐えきれず、叫び声を上げた。
「やめ....やめて....シャーリィちゃんを傷つけないで....」
その凄惨な様子を目にしたフレイヤは目に涙を溜め、必死に訴える。
「何を言ってるんですか? 傷つけますし、殺しますよ、あなたもシャーリィ・ミィル・チェルスターの後に殺してあげますからそこで大人しくしていてください」
「うぐっ....」
フレイヤは取り巻きの二人に地面に押さえつけられ、口の中に土が入り苦味が広がった。
「さぁシャーリィ・ミィル・チェルスター、死んでください、スパーク・ショッ....」
(いやだ....ボクの友達を、殺さないで....ダメ....絶対にダメ!!)
フレイヤは残る力を振り絞って右手の拘束だけ逃れる、そして自らの左目に付けられた眼帯を外したのだ、それが合図だった。
「6番の拘束解除を確認、ナンバー・デーモン起動します」
フレイヤの口から機械的な声が盛れたかと思うと、彼女の背中から赤褐色に光る翼のようなモノが生えたのだ。
「ぐあっ....」
「ごぼっ....」
フレイヤを押さえつけていた二人が、口からおびただしい血を吐いたのだ。
理由は単純だった、赤褐色の翼が生えるのと同時に二人の肉体を刺し貫いたからであった。
「フレイヤ....その力は一体....」
シャーリィは驚くべき光景を目にした。
フレイヤの眼帯は外れており、左目が露出していたのだ、そしてその目の中には6という数字が刻まれていた。
しかし驚いていたのはシャーリィだけではなかった。
「有り得ません、これはナンバー・デーモン....かつてエンバース魔導国で行われた魔術実験の被験者が生きていたなんて....」
オラヴィスは先程の余裕綽々な態度とは打って変わって、目の前の圧倒的な恐怖に怯えていた。
「フレイヤっ! よく分からないけどその力はまずい気がするよ! 聞こえてるのっ!? フレイヤ!!」
シャーリィがえもいえぬ危機を察知して、必死にフレイヤに呼びかける。
しかし正気を失っているのか、彼女は見向きすらしなかった。
彼女が見据えていたのはただ一人、オラヴィスだけであった。
「......宿主の意向により、シャーリィ・ミィル・チェルスターの救援及び、敵性個体、オラヴィス・ロフトの破壊を開始します」
フレイヤが放つ無機質な声と共に、地面に巨大な魔法陣が描かれた。
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