第18話 招かれざる客

「なんだよ....なんなんだよ! 部外者がなんでここに!?」


 ある一人の男子生徒は逃走を図っていた。


 何故なら学院の制服姿ではなく、全身に白いローブを纏った謎の魔術師に出会したからだ。


 ペアの相手? そんなのは既に置いてきてしまっている。


「ここまで来れば大丈夫だろ....早くニグル先生に報告を....」


 しかしその瞬間だった。


「動くな、ゆっくりとこちらを向け」


 背後から何者かの声がした、ここは素直に従った方が賢明と思い振り向くとそこには、先程の魔術師と同様の格好をしているものの背格好が違う人物が立っていたのだ。


「ふむ....貴様ではないか、次に行くとする」


 男子生徒はホッと胸を撫で下ろしたが、それと同時に焼け付くような痛みが襲ってきた。


「ぐっ....なんだこれは....」


 目を落とすと、彼の腹部には、深々とナイフが突き刺さっていた。


 倒れる男子生徒などお構い無しに、謎の魔術師は、その場から立ち去った。


 ―――――――――――――――――――――


「んっ....はぁ....ここは、あれボク....寝てた?」


 フレイヤが重い瞼を開ける。

 シャーリィたちが洞窟に入って既に一時間が過ぎていた。


「フレイヤ....よく休めた?」


「あれれ、ボクったらなんで寝てたんだっけ」


「あなたったら魔術の使いすぎで疲れてたんだよ」


 それを聞くなり、フレイヤはハッとして起き上がる。


「まだ対抗戦も終わってないのに心配かけちゃったね、本当にごめん」


「これから頑張ればいいよ、とりあえずここから出ようか」


 二人は薄暗い洞窟から中に出る、しかし外にはとある人物たちが待ち構えていたのだ。


「随分と呑気なものですね、シャーリィ・ミィル・チェルスター、フレイヤ・ティラベル」


「「!?」」


 外にはなんと、白いローブ姿の人間が四人居たのだ。

 途端に体が強ばる二人。


「誰なのあなた達は....ここは部外者は立ち入り禁止だよ」


「大地に流れる雷よ、敵を穿て、スパーク・スピア」


 シャーリィは、謎の人物たちに問い質したのだが、一人の人物から返ってきたのは魔術という名の圧倒的な暴力であった。


「ッ....!?」


 シャーリィの頬は、薄く切り裂かれていた、どうやらわざと外したらしい。


「シャーリィちゃん!! 大丈夫!?」


 フレイヤは慌てて彼女に駆け寄るものの、シャーリィは痛みなど感じないと言わんばかりに謎の人物に問う。


「魔術師ッ....一体何が目的なの!!」


「私はシルバー閃光グリント所属の魔術師オラヴィス・ロフト、目的はシャーリィ・ミィル・チェルスター、フレイヤ・ティラベル、あなた方二人の抹殺です」


 そう言ってオラヴィスはローブのフードを脱ぎ去る、そこにはグレーの髪を靡かせる女が居た。


「私たちの抹殺....!? もしや教団が関わって....」


 教団の名を聞いた瞬間、オラヴィスは不機嫌そうな雰囲気を醸し出した。


「勘弁してください....あんな狂人達と一緒にするなんて....」


(明らかにこの魔術師は強い....! 魔術師の卵に過ぎない私たちが正攻法で立ち向かっても勝てるはずがない! 早く先生のところに戻らなきゃ....)


「シャーリィちゃん、ええとどうしよう!!」


 再び襲ってきた死の気配に、フレイヤが怯え上がる、そんな彼女にシャーリィは言い放った。


「フレイヤ! 早くこの女から逃げて! 先生に助けを求めるの!」


 必死にフレイヤを逃がそうとするシャーリィに、オラヴィスは非情な事を言った。


「無駄です、もうこの実技場には結界を作り出す古代魔術、ワールド・ロックが張り巡らされています、あの教師が助けに来ることはないですよ」


「そんな....!!」


「加えて、結界の本体は学院にありません、従ってアルカティア・ウィンブルの禁忌指定魔術ですら解除は不可能、あなた方は大人しく殺されるしか道は無いんです」


 考えうる最悪の状況であった、目の前にはオラヴィスを含む残り三人の手練であろう魔術師が立ちはだかっていた。


「フレイヤ....作戦変更だよ」


 シャーリィは周囲の魔力を取り込み始めた。

 同時にフレイヤが気がついたようで警鐘を鳴らす。


「シャーリィちゃん....もしかして....ダメだよ! ボクたちじゃ勝てっこないって!」


「そうかもしれない、けど今は先生たちも学院長の助けも期待できない....なら勝てなくても最後まで必死に戦い抜くしかないでしょ!!」


 シャーリィは決意と共に頭に被った帽子を脱ぎ去った。

 黒光りする二振りのツノが発光する。


「フレイヤはどうするの? ここで大人しく殺されるか、一ミリでも可能性にかけてみるか」


「.....ッ!?」


 弱気だったフレイヤであったが、シャーリィの言葉が響いたようだ、彼女もようやく重い腰を上げた。


「ごめん、自分には覚悟が足りなかったみたい....でもボクだって....魔術師だ! こんなところで死ぬ訳にはいかないよ!」


 フレイヤは足をガクガク震わせている、しかし彼女の目は敵であるオラヴィスをしっかりと見据えていた。


「身の程を知らない魔術師はこれだから....はぁ一族の魔術師たちよ、この程度の獲物、容易く狩ってください」


 シャーリィとフレイヤは、この絶望的な戦いに挑もうとしていたのだ。

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