第17話 波乱の対抗戦

「おやおや、誰かと思えばニグル先生じゃないですか」


 生徒たちを見守るニグルの元に一人の男が現れた。

 彼の名はジン・ロービス、一組を受け持つ教師であり、元は魔導国エンバースの筆頭魔術師に就いていた正真正銘の天才だ。


「ジン先生....一体なんの用ですか?」


「特に用は無いですよ、貴方と話してみたいと思いましてね....それに一組の優秀な生徒たちが二組との対抗戦なんて見るまでもなく最初から結果が見えてるんじゃないかって思いましてね、いやぁ失礼」


 ジンは真正面から、喧嘩を売っているとしか思えない言動を投げかける。


(こいつ....ただ嫌味を言いに来ただけか....?)


 しかしニグルも負けじと言い返す。


「ウチの全体の能力は平均的ですけど、優秀な生徒がチラホラ居ますよ、あまり舐めないで頂きたいですね」


 ニグルは笑顔を貼り付けながらジンに言う。

 その言葉を聞いて彼は明らかに不機嫌になったのだ。


「先生は忘れてないですか? この対抗戦は多くのペアを下した方のクラスの勝利です、優秀な生徒が一部しか居ないクラスには少々キツいのではないかと」


 それでも尚言い返してくるジンに、ニグルは段々と苛立ってきていた。

(...コイツ嫌いだ)


 ニグルは内心そう思っていたのだが。


(アルバイトの分際で舐めてくれますね....)


 ジンもまた同様に嫌悪感を抱いていた。


 両者は見えない火花を静かに散らすのだった。


 ―――――――――――――――――――――


「シャーリィちゃん、必ず勝って帰ってこようね」


「ええ、私たちの力を一組に見せつけちゃおう!」


 シャーリィたちはというと、絶対に勝利するという決意と共に実技場に足を踏み入れた。


 生徒たちの胸にはクラス特有のバッジが付けられている、相手のペアを倒した場合、そのバッジを獲得することによって始めて倒したという証明となる。


 だが間違えて同じクラスのペアを倒してしまった場合は、連帯責任となりどちらのペアも無条件で脱落となり、一組側にポイントが入ってしまう。

 敵か味方かを見極めるのも、この授業では重要なのだ


 その瞬間に、ニグルとジンが開始の宣言をする。


「「これより対抗戦を開始する、散開っ!!」」


 その言葉と共に両クラスの生徒たちはペアに別れ、実技場の各地に散っていった。




「なにか作戦はあるの?」


 フレイヤはシャーリィに尋ねる。


「フレイヤは索敵の魔術で周囲を警戒して....私は何時でも迎撃出来るように魔力を取り込んでおくから....」


 この実技場は広大だが、多くの生徒が居る、つまりほぼ全員が魔力を使うので、空気中の魔力が枯渇する前に少量でも魔力を取り込んでおく必要があった。


「我が領域に触れし敵を捉えよ、サーチ・フィールド」


 実はサーチ・フィールドはどの位階にも属さない魔術である、何故だかというと、この魔術は術者の技量次第で索敵できる範囲が違うからだ。


 フレイヤみたいに習得したばかりの魔術師は10mほど、一人前の魔術師となれば50mは探ることが出来る、そして力が人外の域にまで至った魔術師はなんと200mの距離を探ることが可能になるのだ。


 サーチ・フィールドを展開しながらしばらく進むと、フレイヤが何かに気がついた。

 彼女はかなりの小声で、シャーリィにそれを伝えた。


「シャーリィちゃん、ちょっと待って....誰かが木の上に潜んでる....」


 シャーリィは無言で頷いた、そして素早くスペルを読み上げたのだ。


「風の精よ、魔力を補い、吹き荒れる強風となれ ストロング・ウィンド!!」


 ニグルに教えられた通りに、魔力補助スペルを組み込んだシャーリィは強風を生成する中級魔術を発動させた。


 目の前の木を強風が襲った、それと同時に木の上から何者かの声が聞こえた。


「うわっ! なんだこの風は!?」


「何やってんのよアンタ! バレちゃったじゃないの! きゃあ....」


 木の上に潜んでいた二人組の男女が勢いよく落ちてきた。


 胸のバッジを確認すると、一組のものであるのが分かった。


「いてて....もう脱落かよ....」


 木から落とされた上に、魔力も取り込んでいなかった二人に、為す術はなかった。


「大人しくバッジを渡してね、お二人さん」


 シャーリィは笑顔を向ける、しかしその目はとてつもない圧力を感じたのだ。


「シャーリィちゃん....目が怖いよ....」


 その異様な圧力はフレイヤも恐怖を感じるほどだった。


「は、はい渡します....」


「もー! あんたが木の上なら絶対安全だって言ってたのに、信じたアタシがバカだったわ....」


 二人のバッジを受け取ったシャーリィ達はその場を後にした。

 ちなみに後ろから言い争いが聞こえたが、彼女たちには仲裁する義理もなかった。


 ―――――――――――――――――――――


「やったぁ、あっさりと倒せちゃったよ! シャーリィちゃんの作戦の賜物だねっ!」


 フレイヤは飛び上がるほどに喜んでいた。

 しかしシャーリィは違ったようだ。


「あんなの作戦って程じゃないよ....相手が魔術を警戒してればこうはいかなかっただろうし、なにより姿が見えないから二組のペアだった可能性もあったんだよ....あれは賭けだった....」


「でーも、こうやって上手くいったからいいじゃん! この調子でバンバン倒して、先生を喜ばせよう....よ....」


「フレイヤっ!? ちょっとどうしたの....」


 元気に話していたはずのフレイヤが急に倒れたのだ、さすがにびっくりしたのだが、よく見てみるとフレイヤは眠っているだけだった。


「索敵の魔術を展開しっぱなしだったし疲れたのかな....ならどこか休憩できる場所は....」


 こんなところで眠っていたら、バッジを奪ってくださいと言っているような物だ、シャーリィは見つかりにくい場所がないかどうか辺りを見回す。


 すると。


「あそこに洞窟がある....一時間くらい休めばフレイヤも起きるかな」


 シャーリィは静かに眠るフレイヤを、抱えあげ洞窟の中に入ったのだ。


 しかし洞窟の外に、謎の影が立っていたことに彼女たちは気が付かなかった。


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