第15話 一時の休息

自宅の扉を開けると、笑顔のシャーリィが出迎えてくれた。

彼女は制服の上からピンク色のエプロンを羽織っており、抜群の可愛らしさであった。


「あっ、先生! 随分と遅かったね、もうご飯出来てるよ」


部屋中からいい匂いが漂っている、それに呼応するように、ニグルの腹の虫が音を立てた。


「すごくいい匂いがするな、今日は何を作ったんだ?」


「それは見てからのお楽しみ、ささっこちらにどうぞ、先生っ」


シャーリィは軽快に鼻歌を歌いながらニグルを食卓へと誘う。


用意されていたのは学院都市の名物であるヴァルガード鶏を、丸々一匹煮込んだ大きなスープと、 簡素なパンが三つというシンプルな物であった。


しかしココ最近でニグルは知っていた、シャーリィの料理の腕は異常な程に高いということを。

素早くニグルは一口放り込んだ。


「先生....今日のはどう....?」


「うん最高だこれ、やっぱりシャーリィの料理はすごいな」


一言で言えば絶品だった、口からは自然と絶賛の声が漏れる。


「えへへっ....やっぱり食べてくれる人がいると嬉しいな、今まで他人のために作るなんてなかったから....」


シャーリィは気分がいいのか、ニグルに眩いほどの笑顔を向けた。


それから二人で完食した後、穏やかな時間を過ごしていた。


「お、シャーリィは中級魔術の勉強か」


シャーリィは魔術書を開き、中身を凝視していた。


「うん、私はもっともっと魔術を学びたいんだ、これからも先生に助けられっぱなしというのも嫌だし....」


決意に満ちた表情を貼り付けるシャーリィの姿に関心を持っていると、ニグルはあることに気がついた。


「そういえばシャーリィ、帽子はどうしたんだ?」


彼女の頭には本来あるべきの帽子が無く、そこには黒光りするツノが二振り生えているばかりだ。


「あっ、帽子ね....もちろん普段は外さないけど、こうやって先生と二人きりの時は外してもいいのかなって思って」


「いいんじゃないか? 俺は帽子を被っているより、今の方がありのままで好きだぞ」


「すっ....!? いきなり何を言うの先生っ!!」


シャーリィは途端に顔を真っ赤に染めた。

どうやら気に障ってしまっただろうか。


「ごめん、さすがに教師として今の発言は無かったな」


素直に謝るも、シャーリィは不機嫌そうな顔をする。


「先生のバカ....それよりなんで今日、こんなに帰りが遅かったの?」


「ああ、殺されかけたから遅くなったんだ」


ニグルは世間話をするかのように淡々と告げた。


「は?」


これには流石のシャーリィも素っ頓狂な声を出さずには居られなかった。


「ど、どういうこと先生っ! 殺されかけたって....怪我は!?」


我を忘れて、ニグルの体をぺたぺたと触り出すシャーリィ。

(ちょ、近い近い!!)


「落ち着け! 殺されかけたっつっても、遠距離から魔弾で狙撃されたから逃げてただけだ」


「本当に大丈夫なんだね....?」


「もちろん大丈夫だ、お前は俺ほどの魔術師がそう易々とやられると思っているのか?」


「思ってないけど....けど、先生の事を心配しちゃダメ?」


「いや、まあそれは嬉しい限りなんだが....」


上目遣いでこちらを見つめてくるシャーリィ、その愛らしさにどうにかなってしまいそうだった。


この件をどう説明しようかと思案していたところ、時計の針が九時を指していた。


「シャーリィ、そういえば寮の門限は大丈夫なのか?」


「あっ、ダメだ間に合いそうにない....ねぇ先生」


「ダメだ」


ニグルは即答した。

何故なら次に飛び出してくる言葉に大方予想がついていたからだ。


「何も言ってないでしょ」


「泊めるのはダメだ、寮まで送っていくから....」


さすがに生徒を泊めたなどと露呈すれば、クビの可能性は大幅に上がってしまうだろう。


「外には魔弾で狙撃してくる人がいるんでしょ? 先生も私も安全になるから泊めた方がいいよ、ねっ」


そのことを言われてしまえば、もはやニグルに選択肢などなかった。


「しょうがないか....今日だけだぞ....」

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