第14話 ニグルを殺せ
ニグルがアルバイト教師を務めるようになり早1ヶ月が過ぎた。
「なぁニグルよ、もうアルバイトじゃなくて本職の教師としてやっていく気はないか?」
ある日、学院長のアルカティアから思わぬ提案をされた。
しかしニグルは丁重にお断りすることにした。
「いや遠慮しときます....俺、教員免許持ってないし、それに自分は禁忌指定魔術による代償でいつ死ぬかも分からないですから....アルバイトの立場で十分ですよ」
「うーんお前がそう言うのなら妾は強制はしない、だけどな給料アップと臨時ボーナスはたとえ拒否されても絶対にやるからな、なにせ最近のニグルは生徒からも大好評、そして先日の件でも大きな貢献をしたからな!」
「アハハ....まあお金はいくらあっても困らない方がありがたいんで貰っときますね....」
別に今の給料で満足はしていたが、満面の笑みで語るアルカの厚意を無下には出来なかった。
ちなみにこの世界での共通通貨はヴァーツと呼ばれる。
ニグルの給料は平均的な教師と同じで二十五万ヴァーツである。
住居の家賃は給料から天引きされるが、それでも月二万だ、普通に学院都市で売りに出されてる部屋を借りれば、今の二倍以上の値段がかかるらしいのでどう考えても破格であった。
するとアルカは真剣な眼差しを突然、ニグルに向けたのだ。
「そろそろ話してくれないか? なんでお前ほどの魔術師がマジック・ドリームスを抜けたのか、その理由を」
いつかは聞かれると思っていたので、ニグルは口を開いた。
「ここまで良くしてくれたんだ、俺も話さない訳にはいきませんね」
そしてニグルは、マジック・ドリームスを冤罪で追放されたことを彼女に話した、するとアルカは鬼の形相で怒り狂い出したのだ。
「な、なんて酷い話だ! そのエリーという女も酷いが、リーダーのアレクサンドが特に最低だな! 自分の仲間だった男を微塵も信じようとしないなんて....ムキーッ!! 妾のことではないのに腹が立ってきたぞ!」
アルカは彼のために全力で怒ってくれたのだ、ニグルはもう追放されたことを気にしてはいなかったが、それでも嬉しかった。
「まあ俺は嫌われていたから冤罪を吹っかけられたのかもしれないですからね....でももう気にはしていませんよ、こんないい職場に巡り会えたんですから」
アルカをなだめようと言葉を絞り出したニグルだったのだが、その瞬間アルカが彼の体にしがみついてきたのだ。
「が、学院長!? いきなり何を....」
彼女の体は、年齢や実力に見合わず、とても柔らかく、力を入れてしまえば壊れるんじゃないかと思わせるほど細かった。
「お前は良い奴だな、妾に任せておけ、前以上にいい生活をさせてやる、もうそんな辛い目には二度とあわせないから....」
か細い声で呟くアルカを目にした彼は、これからは彼女の厚意は全てしっかりと受け取ろうと決意したのだった。
「やっべ! 明日の準備をしてたら遅くなっちまった....」
ニグルは全力で帰路についていた。
フレイヤに授業で分からなかった所を聞かれ、教えたもののその後には、明日の準備がまだ終わっていないことに気が付き、急いで終わらせたが、その時には夜七時を回っていた。
「シャーリィ....待ってるだろうなぁ」
最近はシャーリィが毎晩、通い妻みたいなことをしているのだ。
なんでもニグルに恩返ししたいと言うことで夕食を作りに来てくれている。
全速力で人通りが少なくなった噴水広場を駆けていたその時だった。
ここから少し離れた、場所にある時計塔の天辺から、何かが光ったのだ。
「ん....なんだ....!?」
その光は凄まじい速度でニグルに向けて向かってきているではないか。
「うわっとぉ!!」
彼は素早く体を捻り、飛来物を躱した。
それと同時に背後にあった噴水が轟音を立てて破壊されたのだ。
(これは....魔弾か!?)
魔弾とはその名の通り、魔術によって生み出される弾丸だ。
その魔術は術者の技量次第な所もあるが、大抵は長距離から狙撃で人を殺すことが可能なものである。
「俺に恨みでもあるのか知らねぇが、ここで死ぬ訳にはいかねぇな!」
とりあえず遮蔽物に隠れるために、ニグルは近くの路地裏へ飛び込んだ。
それと同時に、再び魔弾が発射された。
「チッ、今から時計塔に向かってもどうせ逃げられるな」
今から術者を追いかけても無意味だと悟ったニグルはとりあえず逃げることを選んだ。
「影よ、我が姿を霞ませよ、シャドウ・ステルス」
魔術で自らの姿を消したニグルは、一目散で自宅へと帰るのだった。
「はぁっ....はぁ、相変わらずこの魔術は疲れる....」
シャドウ・ステルスは完全に自分の痕跡を消し去ってしまう上級魔術な故に、消費する魔力も体力も尋常ではないのだ。
そんなこんなで自宅に無事辿り着いたニグルは、安堵の息と共に、扉を開けるのだった。
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