第11話 人外の魔術師

「あなたはアルカティア・ウィンブル....一体何をしたの」


 全てが計画通りだったはずなのだが、突如現れたアルカに、ボマーは動揺を隠せずにいた。


「簡単な事だ、あんたが仕掛けた魔術は全て消去させてもらった」


 アルカは得意げに言う、その表情からは自信に満ち溢れていた。


「そんな、発動済の魔術を消去してしまう魔術なんて存在するはずが.......まさか!」


「そのまさかだよ、妾のディバイン・デリートは半径一キロメートル内に存在する魔術をことごとく消滅させる禁忌指定魔術だ」


「アルカ学院長も....なのか」


 ニグルはボソッと一言呟いた。


「先生、私助かったの?」


 抱き留めたままのフレイヤは涙目で訴えかける。


「アルカ学院長が助けてくれたんだ、シャーリィにかけられた拘束の魔術も消え去ってる....」


 精神的な疲労からか、ニグルは彼女を見守ることしか出来なかった。


「さて、妾が居ない間に随分と好き勝手してくれたようだな、教団の小娘」


 辺りが異様な殺気に包まれる、アルカは怒髪天を突くほどに怒り狂っていたのだ。

 周囲の魔力がアルカの元へと収束していくのが分かった。


「雷の精霊は、あらゆる敵を刺し貫く、スパーク・スピア」


 アルカがスペルを詠唱すると、細い針の形をした雷が生成され、ボマーの心臓目掛けて飛んでいく。


「うぐ....これはまずいね、一旦逃げますか」


 明らかに勝ち目がないと悟ったボマーは紙一重で雷の針を躱して、逃走を図ろうとする。


「まあ避けると思っていたよ、だけど妾の魔術はお前の注意を彼から逸らしたに過ぎない...な、ニグルよ」


「えっ....」


 そう言ってアルカは、ニグルの元を一瞥する。

 彼の横には無事にシャーリィも居た、救出は成功したようだ。


「助かりました学院長....さあ幕引きと行こうか、ウイルス・メイカー」


 ニグルは発動させた、禁術を。


「うっ....ああああっ!」


 ニグルがウイルス・メイカーを発動させてまもなく、ボマーはけたたましい叫び声を上げたのだ。


「そんな私の両腕が....」


 ボマーの両腕は黒く染まっていた、明らかに壊死している。


「ボマー、お前には体の部位を壊死させるウイルスを送り込んだ、これでお前は終わりだ」


 ボマーは力なく地面にへたり込む、明らかに戦意喪失しているのは明らかであった。


「すまんなニグル、お前からしたら殺したくて堪らないだろうがこの小娘は、鬼人邪教団の構成員だ、有益な情報を吐かせたい」


 どうやらアルカは、尋問を行いたいらしい。


「分かってます、でもコイツは人の心がない化け物だ、何を企んでいるか分からないので十分に気をつけてくださいね」


 そう言ってニグルは、シャーリィとフレイヤを連れてその場を後にしようとしたのだが。


「ふふふ....ねえ先生、人の事を化け物呼ばわりしてくれちゃってるけど、あなたも、アルカティアも、同じ化け物だと自覚するべきだと思うの」


 ボマーはいやらしい笑みを貼り付けながらニグルに向けて言う。


「何が言いたい」


「禁忌指定魔術をその身に納めた魔術師は各々代償を背負う、その対価に人外の力を振るう私達は、みんな同類なんだよ、あははは....」


「生憎だが俺は人の心を失った覚えはないんでな、一緒にしないでもらいたいよ」


 ニグルは負けじと言い返す、しかし彼女の口から次に飛び出した言葉は彼の怒りを再点火してしまうことになる。


「強がるのは自由だけど、今回の件で大変なことになっちゃったね、シャーリィちゃんは鬼人だと露見してしまったし、彼女はこのまま平穏に学院で生活できるのかしら」


 ニグルの腹の底からふつふつと怒りが湧いてくる。

 気がついたら彼はボマーに掴みかかっていた。


「てめぇが仕向けたんだろうが! やっぱり今ここで殺してやる....!」


 我慢できずに拳を振り上げたニグルを制止したのはアルカであった。


「やめろニグル、ここで殺してしまったら小娘の裏に潜んでる教団の手がかりが無くなってしまうぞ、あとの始末は私達に任せてお前はアルバイトとしての職務を全うしろ、これは雇い主としての命令だ」


 彼女の表情は真剣そのものであった。

 ここまで言われてしまっては、ニグル言い返すことは出来なかったのだ。


「ごめんなシャーリィ、俺が何も出来なかったばかりに秘密を露見させてしまって....」


 申し訳ない気持ちが膨れ上がり、彼はシャーリィに謝罪した。


「先生....私のことはもう大丈夫だから、落ち着いて」


「そうだよ、先生と学院長のおかげでボクたちは助かったんだしそんなに落ち込まないで」


 二人の眩しい笑顔を見ているとニグルは心が救われそうだった。


「.....がはっ」


 しかし瞬間、ニグルの体に衝撃が走った。

 吐き気を催し、口元を手で抑えるとそこには、鮮血がこびりついていた。


(寿命を削って強大な力を振るう、確かに化け物だわな....)


 そして彼は意識を失い、地面に倒れ伏してしまう。


「う、ウソ....先生っ!」


「どうしたの? 目を覚ましてよ!」


 二人は途端に取り乱す、しかしアルカは冷静であった。


「落ち着け二人とも、ちょっと疲労が溜まっているだけだ、ニグルは医務室に運んでおくから目を覚ましたら会いに行くんだな」


 ニグルが突如倒れてしまった為、二人は呆然と立ち尽くすしか無かった。


「先生....これがあなたに課せられた代償なの....?」


シャーリィは誰にも聞こえないような小声で呟いた。


 こうして学院を襲撃した謎の組織、鬼人邪教団の構成員である鬼ノ目ボマーは捕縛されることになった。

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