第9話 鬼ノ目 ボマー

「お前とシャーリィは何をしていたんだ....?」


 翌日の事だ、ニグルはまたもやアルカに突っ込まれていた。


「何とは.......?」


「近隣住民から学院の方に苦情が来てな、生徒が教師らしき人を押し倒して馬乗りになっていた、とな」


 昨日の件はバッチリと学院に通報済であった。


「.......弁明させてください」


 ニグルは事の顛末を洗いざらい彼女に話した、するとアルカは納得してくれたようであった。



 授業に向かうために学院長室を出ると、外にはシャーリィが待っていた。


「どうしたんだシャーリィ?」


「いや、あの....私のせいでまた先生に迷惑が....」


「お前が俺のことを案じてくれたことだ、別に大丈夫だぞ」


 シャーリィと関わって分かったことがある、彼女は悪いことは素直に謝れるよく出来た子だ。


「とりあえず授業がもうすぐで始まるから早く教室に急げよ」


「は、はいっ」


 ―――――――――――――――――――――


 フレイヤは急いでいた、なんと勤勉な彼女が寝坊をしてしまったのだ。


「はぁ....はぁ....ダメだ、完全に遅刻....どうしよう」


 彼女は学院までの移動時間を短縮する為に、裏路地を通っていた。


「路地裏は治安が悪いらしいから早く通り抜けないと....」


「そうね、もしかしたらあぶなーい爆弾魔も潜んでいるかもしれないからね」


 彼女の背後からいきなり声がかかったのだ。

 フレイヤが慌てて振り向くとそこには、黒い外套を羽織った、金髪の女が立っていた。


「誰っ!?」


「お姉さんの名前はボマー、単刀直入に聞くけど君ってシャーリィ・ミィル・チェルスターって子と同級生だよね?」


「あなたは、シャーリィさんとどういう関係なんですか.......?」


 フレイヤの直感が告げる、目の前の女は非常に危険な存在だと。


「ふーん、質問に対して質問で返すんだ、お姉さんそういうの嫌いなんだ」


 ボマーが見せたのは絶対零度の眼差し、それは目を合わせているだけで背筋が凍りついてしまうほどの冷たさを孕んでいた。


「かはっ.......」


 瞬間、フレイヤは鳩尾に強力な拳を叩き込まれる。

 その衝撃で、彼女は手に持っていた魔術書を落としてしまった。


(息が出来ない....全く見えなかった....)


「お姉さんは優しいから見境なく殺したりはしないよー、でも君には私の傀儡となってもらうからね」


 フレイヤは薄れゆく意識の中、ボマーが唱えたスペルを耳にした。


「破の力を埋め込み給え、私は主人、彼の者は奴隷」


 ―――――――――――――――――――――


「フレイヤが来ていない?」


「寮に戻ってもいなかった....真面目な子なのにおかしいよ....」


 授業開始の時間になっても姿を表さなかったフレイヤを慌ててシャーリィが寮まで呼びに行ったのだが、部屋はもぬけの殻であった。


 明らかな異常事態だ。


「授業は一回中止だ、俺は応援を呼んでフレイヤを探してくる」


 そう言ってニグルが、教室の外に出ようとしたその時であった。


 けたたましい爆発音が学院の入口から聞こえたのだ。


「お前たちは外に出るな! 俺が確認してくる」


「先生、私も....」


「ダメだ、明らかに危険すぎる」


 シャーリィが同行を願い出たが、ニグルはそれを一蹴する。


(一体なんだってんだ、フレイヤは行方が分からないし、嫌な予感しかしねぇ....)


 アルカは頼れなかった。

 彼女は生憎とヴァルガード運営会の会合に出ているのだ。


 慌てて学院の正門に着くと、門番の男がフラフラとこちらに向かってきていた。


「おいアンタ....大丈夫か?」


「俺に近づくな! 俺に近づくな! ああああ、このままだと死ぬ! 嫌だあああ!!」


 男は気でも狂ったのか、声を荒らげながら段々と近づいてくる。


「近づくなぁぁぁ、死ぬ!! 死....」


「ブラスト」


 女の声が一瞬だが聞こえた、その時だった、目の前の男の体が内部から弾け飛んだのだ。

 凄まじい爆風はニグルを襲った。


「熱っ! 誰だこんなふざけた真似をする奴は.....」


 煙が晴れると、二人の人物がこちらに向かってきていた。


 一人は、黒い外套姿の金髪の女、そしてもう一人はフレイヤであった。


「ふ、フレイヤ!?」


「あっ、先生....助けて....」


 彼女は拘束はされていなかったものの何かに怯えるばかりで、体を小刻みに震わせていた。


「あれが噂の先生かー....ねえあなた、お姉さんはボマーっていうんだ、突然だけどおたくのフレイヤちゃんは私の魔術で爆弾人間になってまーす」


 ボマーと名乗る女は醜悪な笑みを浮かべた。


 爆弾人間....先程の男と同じという事だろう。

 フレイヤはボマーとかいうイカれた女の気分次第で何時殺されてもおかしくない状況だということだ。


「何が目的だ......」


 思わず尋ねた、ニグルに返ってきた返答に、彼は絶句することになる。


「この学院に鬼人ちゃん....シャーリィ・ミィル・チェルスターって子がいるでしょ? その子をお姉さん達、鬼人邪教団に引き渡してくれないかな? そうすればこれ以上、誰も死なずに済むからねっ」



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