第7話 アルバイト魔術教師の日常
初日から生徒たちに質問攻めにされていたニグルは、心身共に疲れ切っていた。
もうほとんどの生徒は帰路に着いている中、ニグルとシャーリィを含む数人だけが教室に残っていたのだ。
「先生、大丈夫.....? すごい疲れているようだけど」
疲れきった様子を見かねたのか、シャーリィが話しかけてくる。
「いや、みんな元気がいいなって思ってたのさ」
「もう、みんなったら先生を困らせすぎ.....私はずっと文句を言いたかったよ」
「まあまあ、学生なんてみんなそんなもんだ」
そんな他愛もない話をしていると、一人の生徒がニグルの元に駆け寄ってきた。
魔術書を小脇に抱えた少女、フレイヤであった。
「お兄さ....ニグル先生っ、ボクから一つ質問いいですか?」
「おう、いいぜ」
「.....ニグル先生とシャーリィさんはどういう関係なんですか?」
フレイヤはいきなり爆弾発言を投下した。
それを聞いたシャーリィは、途端に顔を赤らめる。
「ふ、フレイヤさんっ!? 私と先生はそういう関係じゃなくて.....」
「でもシャーリィさんったら、ずーっとニグル先生のことを見つめて笑顔になってるし、もしかしたらそういうことなのかなってボクは思ったんだよ!」
フレイヤは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、二人を見つめている。
しょうがない、ここは納得のいく理由を付けておくことにしよう。
「あのなフレイヤ......シャーリィと俺はヘルズ・エリアで何時間もずっと一緒だった、俗に言う吊り橋効果ってやつで彼女は俺を意識しているだけなんだ! だから俺たちはそういう特別な関係とかじゃないからな?」
完全にでまかせであった、この場を切り抜けるためにシャーリィには尊い犠牲になってもらうことにしたのだ。
「はわわっ、ボクったら....シャーリィさんの恋を邪魔するような質問をしてしまうなんて....少し気まずいんでボクは一足先に帰りますね....!」
フレイヤはそう言い残すと、脱兎のごとく駆け出していったのだ。
「ふぅ、なんとか助かったな」
安堵の息を吐くニグルだったが、背後から背筋が凍るほどの怒気を感じたのだ。
「助かってなんかないよ先生....よくもあんなでまかせをペラペラと喋ったね....」
背後には鬼の形相となったシャーリィが立っていた。
「収束せし炎の精よ、燃え盛る輪へと変質し、敵を打ち倒せ....」
シャーリィは初級魔術、フレイム・サークルを発動させ、ゆらりと近づいてくる。
フレイム・サークルとは使用者の周りに、微弱な炎のリングを展開する魔術である。
いくら初級魔術とはいえ、この状態で接触されれば火傷は免れないだろう。
「お、おい落ち着けシャーリィ! 学院内で許可なく魔術を使うのは禁止だぞ!?」
シャーリィは我を忘れているようで、ニグルが制止しても止まる様子は一切見せなかった。
「うるさいうるさいうるさい!! 先生の......バカー!!」
その後、ニグルがどうなったのかは言うまでもないだろう。
―――――――――――――――――――――
翌日の朝、アルカは彼の腕に刻まれた火傷跡を目にする。
「ニグル、どうしたんだその火傷は」
「ある意味最強の魔術師にやられました、火傷は大したことないです.......」
しかしアルカは、やれやれといった様子で魔術を発動させたのだ。
「大いなる天の光よ、彼の者の穢れを清め給え」
途端に、ニグルを包み込んだのは、濃密な魔力だった。
自然と体の痛みも抜けていき、体が軽くなった気がする。
「古代魔術スカイ・ヒーリング、これで仕事にも精が出るだろう? 妾なりの気遣いだ」
「アルカ学院長.....ありがとうございます、これでなんとか頑張れそうです」
アルカは、住居の件もそうだがニグルに対して本当に良くしてくれるのだ。
(アルバイトとはいえこんな職場に巡り会えた事に感謝しないとな)
そんな事を思いながら、ニグルは教室に向けて足を進めた。
「シャーリィには悪いことをしたな....何か埋め合わせしてやるか」
そう呟きながら、教室の扉を開けたのだが、眼前に飛び込んできた光景にニグルは絶句することになる。
「先生っ! 昨日は本当にごめんなさいっ!!」
なんとシャーリィが、角度45度の綺麗な謝罪の体勢を見せていたのだ。
その光景に絶句していたのはニグルだけではなく、生徒全員も同じ反応であった。
「いくら腹が立ったとはいえ、私を助けてくれた先生に対して火傷を負わせてしまうなんて.....昨日の私はどうかしてた.....」
「確かにアレは熱かったしなぁ.......ならシャーリィにはおしおきだ」
その言葉を聞いたシャーリィは、身体を震わせながら両目を閉じた。
「な、なんでもいい.....ですよ、どうぞっ」
ニグルは彼女の頭頂部目掛けて鋭いチョップを落としたが、それは寸前で止まったのだ。
「冗談だ、昨日の件に関しては俺も悪いからな、これで水に流そうな」
「先生.......ありがとう」
生徒たちもどうなるかハラハラしていたようで、周りからは安堵の声が聞こえてくる。
「よーし席につけよ、今日からお前たちに中級魔術を教えてやる、ちなみにだが、今日は魔術書は開かなくていいぞ」
「「「えっ!?」」」
教室中から困惑に満ちた声が上がった。
それもそうだろう、彼らは今まで魔術書に書いてある知識を基に勉強していたからだ。
「俺が知っていることを直々に教えてやる、これでも凄腕魔術師だからな」
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