第6話 最悪なアルバイト初日
「けほっ....けほ....せ、先生....! 返事をしてっ!」
シャーリィは必死に呼びかけるものの、ニグルの声は聞こえなかった。
「あれ....これって....?」
呆然としながら、爆心地を歩き回るシャーリィは、ある物を見つけた。
それは崩れた岩の中から飛び出した足だった。
「先生っ! 大丈夫なの?」
モゾモゾと動いているのでどうやら意識はあるらしい。
「あ、ああ....なんとかな、でも岩と岩に挟まれてて自力じゃ出れねぇ、何とかしてくれー!」
「魔術で岩を動かすから待ってて....我が念と呼応し、物体を退かしたまえ....」
彼女は魔術を使い、ニグルの周りの岩をゆっくりと浮遊させて、彼を助け出した。
―――――――――――――――――――――
「助かった、ありがとうなシャーリィ」
ニグルは爆風により、煤まみれであったが、大した怪我はしていないようだった。
「でも、まさか自爆するなんて予想外だったね」
「それに奴は秘密を守るって言っていた....裏に誰が潜んでるのかは分からないが、とんでもない事に巻き込まれちまったもんだ」
出来るだけ厄介事は避けたかったのだが、そうはいかないらしい。
「あっ、そういえば上の核石を壊せばここから出られる...! 私が破壊してくるから先生はここで待っててね」
シャーリィは一気に螺旋階段を駆け上がっていく。
そして核石に辿り着いたところで彼女は初級魔術のロック・バレットで破壊したのだ。
その瞬間だった。
視界は眩い光に包まれた、どうやらヘルズ・エリアが崩壊を始めているようだった。
「もう、指一本動かせねぇや....」
ニグルは極限の疲労を感じながら意識を手放したのだった。
―――――――――――――――――――――
次に彼が目を覚ましたのは、知らない天井だった。
「アルバイト初日にとんでもない事に巻き込まれたな、ニグル」
ニグルが眠っていたベッドの横に設置してある椅子に、腰掛けていたのはアルカだった。
「ここは学院の医務室だ」
「そうか、てか体が痛ぇ....俺たちは無事にヘルズ・エリアから脱出できたんだよな....」
「あまり無理はするな、妾の魔術で多少の疲れは癒してるとはいえ、ニグルの体には大量の魔力を取り込んだ形跡がある、暫くは安静にしているんだな」
アルカは彼に対して、厳しく釘を刺すと、彼女は医務室から出て行ってしまった。
そういえばシャーリィはどこに行ったのだろう。
そんなことを考えていると、自分の下半身辺りがもぞりと動いたのだ。
なんと、シャーリィが布団の中から出てきた。
(あ、これ前にも....似たようなことが....)
「先生....目を覚ましたんだね、私たち助かったんだよ」
「ちょ、シャーリィさん? なんで俺のベッドの中にいるんですか?」
ニグルは驚きで、ついつい敬語になってしまう。
「それは私を助けてくれたご褒美ですっ」
最初はあんなに警戒されていたニグルだったが、今回の件を通して随分と懐かれてしまったようだ。
「....やれやれ最悪なアルバイト初日かと思いきや、生徒に好かれるなんてどんな日だよ....」
ニグルは大した怪我もしていなかったので、翌日から勤務開始することになった。
―――――――――――――――――――――
「ふぅ....落ち着くんだ....よし、入るぞ....」
ニグルが受け持つことになったクラスは、一年二組だ。
クラス全体の成績は至って普通、問題児も居らず、特に変わったところはなさそうであった。
緊張で体を強ばらせるニグルは意を決して、ゆっくりと教室の扉を開けたのだ。
着席している生徒たちは、奇異の目をニグルへと向ける。
そんな視線は気にせずに、ニグルは挨拶を済ませることにした。
「今日からアルバイトの教師としてこのクラスを受け持つことになった、ニグル・フューリーだ、よろしくな」
完璧な挨拶を決めた、と思ったニグルの視界に、見覚えのある人物が二人映ったのだ。
(シャーリィに....あの子はフレイヤか....彼女たちも二組だったのか)
シャーリィはニグルを見るなり、チラリと笑顔を向けてくれた。
丁度、知り合いの女生徒が二人も教え子になってしまったのだ。
「何か俺に質問がある奴は遠慮なく言ってくれよ」
ニグルが、そう言った瞬間だった。
クラス中から質問の嵐が飛んできたのだ。
どんな魔術が使えるんですか? や趣味はなんですか? という普通の質問から始まり、ウチのクラスの女子で誰が一番好みですか!? などなどふざけた質問も飛んできていた。
「あああ! 順番に答えるから少し落ち着いてくれ!!」
これから賑やかな毎日になりそうだ、とニグルは期待に胸を踊らせるのだった。
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