第2話 学院都市ヴァルガード

「ここが、学院都市ヴァルガードか....」


 数日後、ニグルはヴァルガード魔術学院が存在する地、学院都市を訪れていた。


 ここは、どの国にも属さない地域で、住人の大半がヴァルガード魔術学院の生徒や関係者である。

 しかしお世辞にも治安はいいといえず、トラブルは割と日常茶飯事らしい。


「面接、何を言えばいいんだろう....ドリームスのことを言うのもなぁ」


 彼は所属していた魔術師パーティ、マジック・ドリームスを追放されたのだ、そんな事を面接で言ってしまえば、かえってマイナスなイメージが付いてしまう可能性があった。


 そんなことを考えながら、学院への道を歩く。

 周囲の町は、外よりも遥かに発展しており、真新しいものばかりだった。

 ニグルはついつい目移りしてしまう。


「ん...?」


 その時、彼はふと視線を感じた。

 どうやら前方から向かってくる少女がこちらを見つめていたらしい。


 学院の制服に身を包む、小柄な体。

 端正な顔立ちに、紫の髪色、そして長い髪はツインテールに纏められていた。

 彼女は正に、美少女と呼べる存在であった。


 しかし、ニグルはある事が気になっていたのだ。


「なんだ、あの異様な魔力は....」


 そう、彼女の周囲を漂う魔力に、不思議な雰囲気を感じたのだ。

 しかしずっと見つめていたからだろう、流石に少女もニグルの事に気がついた。


「そこの人、ずっと私を見ているけど、なんか用があるんですか....?」


「い、いや綺麗な子だなあと思って....」


「いきなりなんなんですか....憲兵に通報しますよ....?」


 少女は明らかに警戒心を露わにしている。

 さすがに不審者として通報されても厄介なので、ここはそそくさと立ち去ることにした。


 ―――――――――――――――――――――


 逃げるように少女の元を立ち去ったニグルは、気がつくと学院の入口に到着していた。


 近くの詰所に常駐しているであろう、門番の男性に話しかける。


「あ、あの....アルバイトの面接に来た、ニグル・フューリーですけど」


 それだけで伝わったのだろう、門番は一言だけ声を発した。


「はい、伺っています、学院長室にどうぞ」


 なんとも事務的な対応であった。


 広大な中庭を抜け、学院の管理棟へと足を踏み入れる、そして面接の会場である学院長室をノックした。


「どうも、ニグル・フューリーです、アルバイトの面接を受けに参りました!」


「うむ、入りたまえ」


(あれ?声が....?)


 ノックした後に呼びかけると、中から聞こえてきた声は幼い少女のようなものであった。


 恐る恐る学院長室に入るとそこに佇んでいたのは。


「初めましてニグル・フューリー君、妾がヴァルガード魔術学院の長、アルカティア・ウィンブルだ、気軽にアルカ学院長とでも呼んでくれたまえ」


 やはりというか、そこに居たのは到底学院長には見えない、緑髪の幼い少女であった。


「ええと....あなたが学院長....?なんですか」


「なんだ? そうだと言ってるだろう....あ、もしやニグル君、妾のことを見た目で判断していないか!? これでも君よりずっと年上なのだよ」


 アルカは頬をぷくっと膨らませながら抗議の声を上げた。

 その姿に愛らしさを覚えつつも、ニグルは人を見た目で判断してはいけないという、初歩的なことに気がついた。


「す、すみません! まだ面接もしてないというのに非常に失礼な事を」


 慌ててニグルは頭を下げて謝罪を行う。


「いいんだ、分かってくれたのなら、それで君の面接だが.......特にないっ!」


 言われたことがまたもや意味が分からなかった。

 この人は、面接は無いと言ったのだ。


「は?」


 ニグルは思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。


「いやね、知人の伝で君の経歴を少し調べさせてもらったよ、そしたらあのマジック・ドリームスの第四席だったそうじゃないか、なんで抜けたのかという野暮なことは聞かないから安心してくれ」


 そして彼女は続ける。


「あの有名なマジック・ドリームスに所属できるほどの魔術師だと言うことはこの学院で、アルバイトの立場とはいえ、教師としての仕事を行うことができると判断したんだ、ということで合格だ!! 来週から勤務よろしく、ニグル君」


「は、はい....」


 面接....は無かったが、ニグルは無事に無職から脱却することが出来たのだった。


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