ウイルス錬成魔術師は魔術学院で教師に再就職します。

古書館のトマミン

第1話 不当解雇なんて酷すぎる

「ニグル、お前は今日限りで俺らのパーティ、クビな」


 何を言われたのか、理解出来なかった。


 ニグル・フューリーは魔術師だ。

 魔術というのは、大気中に漂う魔力を用いて様々な現象を起こす奇跡。

 炎や氷、風、治癒などその現象は多岐に渡り、一般的に魔術は人間の生活に馴染みきっている。


 しかし禁忌指定魔術と呼ばれるものは、特殊な魔法陣から生成され、通常の魔術よりも遥かに危険な代物で、その上に使用にはそれ相応の代償が伴うというオマケ付きな為、人々から忌み嫌われている。

 使える人間も極わずかであり、もしも扱えれば魔術師としての才能は限りなく高いと言える。


 ニグルは巷では有名な魔術師パーティ(マジック・ドリームス)の一員であった。

 主な仕事は、様々な場所を旅しては魔術を用いて人々を助ける、簡単に言えば正義の味方みたいな事ばかりだった。


「ま、待ってくれよアレク!? クビってどういうことだ! 俺、なんかやっちゃったのか?」


 ニグルの目の前に立つ男はアレクサンド・ロックス、マジック・ドリームスの第一席だ。


「はぁ....エリーが....この前の夜にお前の魔術で襲われそうになったんだとよ....俺のパーティの女に手を出すなんていい度胸じゃねぇか」


 全く知らない話であった。

 そもそもの話、エリーは昔から嘘ばかり着いてきた性悪女であったのだ。


「そんなことなんかしていない! またエリーの嘘じゃないのか!?」


 そう叫ぶと、アレクの後ろからエリーが姿を現した。

 現れるなや否や、彼女は大粒の涙を流す。


「嘘なんて酷いよ....! あの時、私をウイルスに感染させて身動きを取れなくしたじゃない!!」


「そんな......」


「他のメンバーとも相談して、憲兵に引き渡すかどうか協議したんだが、お前には色々と世話になったからな、その働きに免じてクビで済ませてやるってんだ」


 あまりにも不当すぎる解雇であった。


「納得いかねぇ、エリーの証言だけで何が分かるんだよ!」


 証拠も提示されていないし、エリーの証言だけでは信ぴょう性は薄いだろう、ニグルは必死に無実を訴えたのだが。


「普通は憲兵に突き出すのをクビで済ませるっつってんだ!! 分かったならさっさと消えろ、その汚ぇ面を二度と俺に見せるな!!」


 アレクは敵意に満ちた眼差しで、ニグルを睨みつけた。

 もうその目にはニグルを仲間と認識する事は無かったのだ。


「....!!」


 ニグルの中で何かが切れる音が聞こえた。

 彼は突然荷物を纏めると、パーティの元を去ろうとする。


「あぁ、そんなに俺が邪魔なら今すぐ消えてやるよ....でもな、お前らと過ごした日々、悪くなかったよ」


 そう言い残して、ニグルは、長年世話になった魔術師パーティ(マジック・ドリームス)を去っていったのだ。


 ―――――――――――――――――――――


 ニグルは途方に暮れていた、なぜなら急に無職になってしまったからだ。


「はぁ....これからどうすんだ....あいつらに払った慰謝料とやらも高すぎてもうほとんど貯金も残ってねぇ....」


 ニグルはクビになってからと言うものの、なけなしの金で、昼間から酒場で飲んだくれていた。

 さすがに何日もその場面を見ているのだろう、気になったのか酒場の店主ミーコが話しかけてくる。


「ニグルさん、どうしたんですか? もう何日も来店してますけど....」


 ミーコは優しい口調と笑顔で、話しかけてくる。


「ああ....ミーコさん、俺マジック・ドリームスをクビになったんですが....なんか就職にいい場所って無いですかね....?」


 彼は最後の助け舟を求めて、ミーコに必死に訴えた、すると彼女は懐から一枚の紙を取り出したのだ。


「なんですか、コレ?」


「これは学院都市にある、ヴァルガード魔術学院のアルバイト教師募集のチラシですよ、ニグルさんにピッタリじゃないですか?」


 ヴァルガード魔術学院、世界最高峰の魔術師育成機関と呼ばれる場所だ。

 学院都市ヴァルガードが所在地であり、教師も魔術のスペシャリストばかりで、入学試験もかなり困難なものである。

 彼女によれば、ニグルは他の魔術も扱うことが出来るのなら、教師にも向いているということだった。


「無職から脱却できるのなら、ダメ元で応募してみるか」


 しかしこの一枚のチラシが、ニグルのこれからの運命を決定づける物となることをこの時は両者とも知らなかったのだ。

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