第五百八十八話 何とか解決です

「うっ、こ、ここは……」

「ヨーク伯爵、気がついたか! 黒髪の魔術師が貴殿を治療したのだ」

「おお、そうか。私は助かったのだな」


 声を発したヨーク伯爵に、部隊長さんがホッとした感じで話しかけた。

 部隊長さんも、ヨーク伯爵の容体をかなり気にしていたんですね。

 そして、ゆっくりとベッドから体を起こしました。

 体の節々を触りながら、驚きの表情を浮かべていました。


「信じられん、肩や膝の痛みが全くない。まるで生まれ変わったかのようだ」

「あっ、体中の悪いところも一緒に治しましたよ。軍人さんって、腰や膝も悪くなる人が多いんですよね」

「ははは、それは訓練をしているからだ。宮廷魔導師の力、この身で実感したぞ」


 すると、ヨーク伯爵はおもむろに立ち上がりました。

 二人の子どもが心配そうに両脇についたけど、ヨーク伯爵は心配いらないとニコリとしました。

 本人曰く少し痩せたと言っていたけど、それでも筋肉質の体型だと思いますよ。

 そして、ヨーク伯爵は執事に問いかけました。


「あの二人はどこにいる?」

「応接室におります」

「では、私の手で裁くとするか。わざわざレオ君の手を煩わせる必要はない」


 おお、ヨーク伯爵からゴゴゴって怒気が膨れ上がったよ。

 それほど、正妻と側室に怒っているんだ。

 もちろん、僕たちも後をついていきます。


 ガチャ。


「待たせたようだな……」

「あっ、あなた!」

「そんな、歩いて!」


 ヨーク伯爵が睨みを利かせながら応接室に入ると、正妻と側室の顔は真っ青になりました。

 思わずソファーから立ち上がりそうになったけど、兵が肩を押さえて無理矢理二人を座らせます。

 うん、俯いてガクガクと震えていますね。


「お前たちのやっていることは、全て把握している。横領だけに飽き足らず、互いの子どもを毒殺しようとして毒を購入したこともな」

「「えっ!」」


 立ったまま二人を尋問するヨーク伯爵の隣にいた子どもが、思わず父親の顔を見ていました。

 そして、母親の顔を信じられないという表情で見ていました。


「そして計画が私にバレて、互いに私を毒殺しようとしたこともな。鍛えた体がなければ、今頃は天国に行っていただろう」

「「うぐっ……」」


 それぞれ別々に行動していて、たまたま同タイミングでヨーク伯爵を毒殺しようとしたんだ。

 これには、僕たちも呆れるばかりです。

 すると、今度は部隊長さんがやってきました。


「二人の部屋から、即効性、遅効性両方の毒物が発見された。鑑定を進めれば分かるが、そもそも毒物があること自体駄目だ」

「アオン!」

「ピィ!」


 そういえばいつの間にかシロちゃんたちがいないと思ったけど、あっという間に毒物を見つけたんだ。

 特にユキちゃんの鼻の良さは凄いもんね。

 更にヨーク伯爵の怒りは止まりません。


「息子に対する理不尽な虐待も把握している。それに、その格好はいったいなんだ? ふざけているにも程がある」

「「うう……」」


 もはや、正妻と側室は顔面蒼白です。

 自分のやっていたことが、ここまでバレていたとは思わなかったのでしょう。

 そして、ヨーク伯爵が決断を下しました。


「二人を死刑囚牢に入れるように。服も相応しいものを用意するのだ。厳しい尋問をするように!」

「「「はっ」」」

「し、死刑囚?!」

「旦那様、お、お許し下さい!」


 ヨーク伯爵は、二人を許すつもりはないのだろう。

 二人が醜く叫ぶが、最後まで謝罪の言葉はありませんでした。

 そして、ヨーク伯爵が二人の子どもを抱きしめました。


「二人とも、辛い思いをさせて済まなかった。これからは、私もできるだけそばにいよう」

「「お父様!」」


 きっと、子どもも辛い思いをしていたんですね。

 母親のことを全く庇わなかったのを考えると、そういうことなのでしょう。

 僕たちも、ホッと安堵の表情を浮かべました。

 あっ、無事に解決できたと連絡しないと。

 僕は、通信用魔導具を取り出して何があったかを連絡しました。


「ヨーク伯爵様、ブランドルさんが調査官を派遣すると言っています」

「これだけの事件になったのだ、軍務大臣が動くのは当然だろう。了解したと伝えてくれ」


 街道を預かる大貴族当主への毒殺未遂だから、国が動くのも仕方ないね。

 でも、ヨーク伯爵が悪いことをしたわけではないし、陛下も後は軍務大臣に任せると返信していました。

 まだヨーク伯爵家の屋敷に入って三十分経っていないけど、ひとまず一件落着ですね。

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