第五百八十七話 ヨーク伯爵領に到着

 旅も四日目に入ります。

 今日は天気もとても良くて、雨も夜のうちに上がったみたいです。

 いよいよ、中継地点でもあるヨーク伯爵領に到着します。

 ブラウニー伯爵から当主の治療の依頼を受けているけど、いったいどんなところなのかな?

 そんなことを思っていたら、定時連絡で色々な人から教えて貰いました。


「えーっと、二人の子どもは僕と同じくらいで、とても性格が良く仲が良い。仲が悪いのは、正妻と側室の方だという」


 チャーリーさんから連絡をもらったけど、子どもは仲いいのに親が仲悪いのは駄目だよね。

 それに、ヨーク伯爵は軍人みたいに体を鍛えているので、そう簡単に意識不明にはならないはずだそうです。

 部隊長さんもヨーク伯爵のことを知っているけど、スキンヘッドだけど背が高くて筋肉ムキムキの凄い人だそうです。

 うーん、何があったんだろうか?

 そのヨーク伯爵領は補給をする中継地点でもあるので、お昼前には到着するそうです。

 勉強をしながら考えていたけど、貴族服を着て対応しないといけないので馬車の中で着替えました。


「おおー、ここがヨーク伯爵領なんだ。人がいっぱいで栄えているね!」

「アオン!」


 順調に馬車は進んでいき、ヨーク伯爵領に到着しました。

 街道沿いの主要領地なので人も荷馬車もとても多く、町は活気に溢れていました。

 そんな町の中をゆっくりと進んでいき、僕たちが泊まる宿に到着しました。

 思ったよりも大きい宿ですね。

 とりあえず、無事にヨーク伯爵領に到着しましたと定時連絡を入れます。

 すると、陛下から返信がありました。


「なになに? 『ブラウニー伯爵がレオに依頼した件を格上げする。余の名で、ヨーク伯爵の治療と原因追求を命ずる』って、とんでもないことになっちゃったよ……」


 部隊長さんにも見せたけど、命令だから仕方ないねと言っていました。

 その代わり、シロちゃんたちがやる気満々にアップを始めています。

 あの、やりすぎないようにね。

 ジェシカさんも、当然だと言わんばかりについてくるそうです。

 さささっと昼食を食べて、護衛の兵というか宿に残る兵を除いて全員でヨーク伯爵家に向かいました。

 みんな、とってもやる気満々なのが怖いですね……


「皆さま、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


 屋敷の玄関に入ると、執事が恭しく出迎えてくれました。

 僕たちも、執事の後をついていきながら屋敷の中に入ります。


 もわーん。


「キュー、キュー……」


 その瞬間、とんでもない香水の臭いが漂ってきました。

 思わず腕で鼻を覆ってしまうレベルで、鼻がいいユキちゃんは既に涙目モードです。

 そして、僕たちの前に横にとても大きい女性が二人立っていました。

 髪の毛に何だか良く分からない飾りがたくさんついてあって、ドレスも金ピカな刺繍がしてあります。

 更に、全身これでもかという程のアクセサリーを身に着けています。


「ようこそヨーク伯爵家へ。正妻の私が、黒髪の天使様のご来賓を歓迎しますわ」

「ふふ、側室の私こそが黒髪の天使様を案内するに相応しいですわ」

「出しゃばらないで下さるかしら?」

「そちらこそ、引っ込んでくれないかしら?」


 あの、何で歓迎しながら喧嘩を始めるんですか?

 僕たちも、思わずぽかーんとしちゃいました。

 すると、部隊長さんが一歩前に出ました。


「歓迎されるのはとてもありがたいが、我々は畏れ多くも陛下より調査の命を預かっている」

「「げっ!」」


 僕が通信用魔導具に書かれている陛下からの命令を見せると、目の前の女性二人が驚愕の表情に変わりました。

 それとともに、女性二人を兵が取り囲みました。


「陛下からの命である。応接室にて待機して貰います」

「従わなければ、陛下の命令違反とみなします」

「「ぐっ……」」


 二人は、かなり悔しそうな表情をしていました。

 うん、この時点で何か事情を知っているみたいですね。

 その間に、僕は執事さんの先導で動き始めました。

 すると、ヨーク伯爵の寝室の前で二人の男の子が僕たちを待っていました。

 緑髪の坊ちゃん刈りで、双子にも見えるほどそっくりですね。


「黒髪の天使様、お父様を助けて!」

「お父様、お母様に毒を飲まされたの!」


 涙目で僕に助けを求めてきたけど、まさかの展開に僕もびっくりです。

 でも、部隊長さんはこの事態を予測していたのか、とても冷静ですね。

 とにかく治療をしないといけないので、ヨーク伯爵の寝室に入りました。

 すると、そこには如何にも体調が悪そうな大きな男性がベッドで寝ていました。

 部屋の中には兵がいて、ヨーク伯爵を守っていました。

 先に、ヨーク伯爵を鑑定します。

 すると、驚愕の結果が分かりました。


「やっぱり毒に侵されています。しかも、二種類の毒です」

「そ、そんな……」

「お父様、しっかりして!」


 もう二人の子どもは、ヨーク伯爵にすがるようにしていて涙が止まりません。

 早く治療しないとと思い、僕たちは魔力を溜め始めました。


「ユキちゃんも、解毒魔法を使ってね。僕とシロちゃんで、全力の回復魔法を放つよ」

「アオン!」


 ユキちゃんも、任せろと張り切っています。

 では、さっそく回復魔法を放ちましょう。


 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!


「わあ、凄い光だよ!」

「これが、黒髪の天使様の魔法……」


 今日はユキちゃんも魔法を放っているので、いつもよりもたくさんの魔法陣が出現しています。

 手応えバッチリだったけど、果たしてどうでしょうか?


「うっ、うう……」

「「お父様!」」


 ヨーク伯爵は、無事に意識を取り戻しました。

 直ぐに目覚めるなんて、流石体を鍛えているだけありますね。

 二人の子どもも、ヨーク伯爵に抱きついて嗚咽を漏らしていました。

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