第五百五十六話 ひたすら治療を続けていきます

 こうして、暫くの間僕は運び込まれた人たちを急いで治療をしていました。

 みんな本当に酷い状態で、瀕死の重症ってこういうことをいうんだと感じてしまいました。

 それとは別に、帝国兵で捕虜になっていた人が一斉に解放されたそうです。

 中には帝国に帰りたくないと言っている人もいるけど、仲間に促されて戻って行ったそうです。


「はあ、やるせなかったわ。ある程度覚悟はしていたけど、まさかここまで酷いことになっているとは思わなかったわ」


 応急処置を終えてシロちゃんとともに戻ってきたアイリーンさんも、凄惨な現場を目にしたのか表情はとても暗かった。

 シロちゃんもかなり落ち込んでいて、僕の頭の上でへんにゃりとしています。

 捕虜を搬送した兵も、ここまで酷いのかと口数は少なかった。

 すると、治療部屋の中にブラウニー伯爵が入ってきました。


「ハーデスから話を聞いたが、帝国側の指揮官はかなりまともな人物らしい。だから、帝国側の施設では更に捕虜が死ぬだろうと判断して早期の捕虜交換を提案してきた。亡くなった捕虜への補償関連はまた別の話だ。国からは、戦死に伴う一時金に上乗せして支払うことになる。そのくらいしかできないのが、自分自身に腹が立つがな。だからといって、帝国に報復したところ死んだものは生き返らないがな」


 ブラウニー伯爵も、本当に複雑そうな表情をしているけど心中は穏やかじゃないんだろう。

 僕も死者を生き返らせる魔法は知らないし、そもそもそんな魔法はないってアイリーンさんも言っていた。

 こうして、治療部屋の中に多くの人が集まる中、僕たち治療班は今日の治療を終えました。

 更に、ブラウニー伯爵が僕にある指示を出しました。


「レオ、全力の魔法を使って治療するのは一日三人までだ。まだ停戦交渉中で、実際に停戦しているわけではない。俺だってレオに全員治療してくれと言いたいが、そうはいかないのが現実だ。俺たちが頑張って停戦交渉をするから、なんとか我慢してくれ」

「でも、ブラウニー伯爵も無理をしないでくださいね」

「俺はある程度無理はするさ。久々に体ではなくて頭を使うことになるからな」


 もしかしたら、ブラウニー伯爵は場の空気を良くしようとしたのかもしれない。

 治療班も兵も、少し苦笑いしていました。

 こうして、本格的な停戦交渉が始まりました。

 その間、僕は頑張って捕虜になった兵を治療していきました。

 アイリーンさんも、宮廷魔導士としてハーデスさんと行動をともにしていました。

 ブラウニー伯爵が僕に全力の魔法は三人までと言っていましたが、実際に捕虜だった人の病状は重くて四人治療するのは難しかった。


「それでも、流石はレオ君って感じだわ。重症者の治療を進めてくれるおかげで、私たちも他の治療に専念できるわ」

「栄養のつくものを準備しているから、治療を終えた人から食べさせるわ」


 ケイトさんとカーラさんも、努めて明るく振舞っていました。

 それでも、一人また一人と元気になっていく様子に、僕たちだけでなく基地の雰囲気もとても良くなりました。

 そんな中、マイアさんは熱心に一人の捕虜を治療していました。

 親戚のお兄さんらしく、小さい頃からマイアさんに良くしていたそうです。

 身内の人がボロボロな状態になってしまうと、とっても悲しくなっちゃうよね。

 でもマイアさんお兄さんの凄いところは、僕とシロちゃんの全力回復魔法は一番最後にしてくれというところです。

 そんなマイアさんのお兄さんにはユキちゃんも一生懸命治療していて、徐々に良くなっていきました。

 ユキちゃんも腕を上げているので、もしかしたら僕がマイアさんのお兄さんの治療をする前に完治させちゃうかもね。

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