第五百五十五話 会談と悲しい事実

 そして、ブラウニー伯爵とハーデスさんの予想通りに、暫くしたら帝国側に大きな動きがありました。

 ぴったり二週間後なので、本当に凄いですね。


「帝国側が会談をしたいと言ってきた。場所は、王国と帝国の国境付近に設けるという。罠の可能性もあるが、話を聞く姿勢をみせるのは良いことだ」


 今朝早く、帝国兵が書状を持ってきたらしい。

 ハーデスさんも確認したけど、内容はきちんとしたものだったらしい。

 会談予定日は二日後で、それこそ護衛も連れてきていいらしい。


「会談には、私とアイリーンが出る。ブラウニー伯爵には、何かあった際のために基地に残ってもらうことになった」

「この基地の責任者はハーデスだから、俺がしゃしゃり出るとおかしいことになる。持ち帰った話の確認は、お互いにするけどな」


 こうして、少しだけど帝国と王国で話が進むことになりました。

 もちろん僕は参加できないので、難しい話はブラウニー伯爵とハーデスさんにお任せです。

 念の為にシロちゃんとピーちゃんの偵察を続けたけど、今のところ戦闘が始まる様子はないそうです。

 とはいえまだ帝国と停戦している訳じゃないので、兵も警戒を続けます。

 そして、アイリーンさんがあるお願いをしました。


「念の為に、シロちゃんを連れていきたいの。荷物の中に隠れてもらうことになるけど、万が一に備えるってためね」


 アイリーンさんのお願いに、シロちゃんもやる気満々で答えていました。

 こうして準備を進めて、いよいよ会談が行われる日になりました。

 ハーデスさんは正装の軍服で、アイリーンさんも宮廷魔導師の制服を着ています。

 アイリーンさんはマントを羽織っているので、シロちゃんもその中に隠れることになりました。

 事務担当とともに屈強な兵が護衛につくらしく、これで安全は大丈夫ですね。


「では、行ってくる。後を任せた」

「「「はっ」」」


 ハーデスさんたちを、たくさんの兵とともに見送りました。

 こうして、王国と帝国の軍の偉い人の話し合いが始まりました。

 会談の間、僕はいつも通りレンガ作りを行っていました。


「今日一日で全てが決まるわけがない。こういうのは、素案を決めてお互いに詰めていくことになる」

「まあ、停戦だけなら直ぐに合意できるだろう。問題になるのは、捕虜の交換とかだ。捕虜の扱い一つで、再び戦闘になるだろう」


 王国兵は、最初の奇襲を受けた際に複数の捕虜が発生したという。

 それ以外は捕虜は発生していないけど、代わりに帝国兵はたくさん捕虜が発生している。

 しかし、聴取はあったけど虐待は一切行われていない。

 逆に、帝国兵の捕虜は待遇がいいと言っていました。


「逆を考えると、王国兵の捕虜がまともな待遇を受けているとは思えない」

「捕虜を優遇すれば、自分の兵の不満が爆発するからな。正規兵じゃなくて、スラム街の住民を使ったほどだ」


 兵も、捕虜のことを考えるととても気が重いという。

 僕も、無事でいてくれればと願うばかりです。

 しかし、とても残念なことが起きていたのでした。

 夕方になって会談が終わったタイミングで、急いで来てくれと呼ばれました。

 すると、治療部屋には痩せ細った人や手足を失った人が運び込まれていました。

 あまりの凄惨さに、僕だけでなく駆けつけた兵も言葉を失ってしまいました。


「取り敢えずエリアヒールで纏めて治療してから、個別に治療します」


 僕は、ユキちゃんと一緒に魔力を溜め始めました。

 ユキちゃんも、とても悲しそうな表情をしていました。


 シュイン、ぴかー!


 部屋を包み込む広範囲回復魔法が効いたのか、部屋に響いていた苦しそうなうめき声はなくなりました。

 ここからは、治療班の人とともに個別に治療していきます。

 なんとか治療はうまくいったのですけど、シロちゃんはまだ帰ってきていないので手足の再生までできません。

 シロちゃんだけでなくアイリーンさんもまだ帰ってきていない理由は、ハーデスさんが教えてくれました。


「実は、ここに連れてくるのも危険な捕虜がいて、治療してから連れて来ることになった。しかし、命があるだけまだマシなのかもしれない。半分近くが命を失っていた」

「「「そんな……」」」


 僕だけでなく、治療班も兵も絶句しちゃいました。

 捕虜が半分以上死ぬなんて、普通じゃありえないそうです。

 そして、ハーデスさんが落ち込む兵にあることを指示しました。


「あるだけ担架を持ってこい。運ばないといけないものがたくさんいる。死を悼むことも大切だが、今は目の前で苦しんでいる兵を救わないとならない」

「行くぞ! 直ぐに行くぞ」

「担架は兵舎にあるぞ。待機兵も連れて行くぞ」

「ここにも、ベッドを追加で出すぞ。手が空いているものに声をかけろ!」


 悲しさを堪えるかのように、兵が一斉に動き出しました。

 まだやることはたくさんある、そう声にしていました。

 もちろん、僕たちにもやることはたくさんあります。

 今一度、気持ちを落ち着かせて準備を進めました。

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