第四百五十四話 やっぱりヒルダさんは凄い人でした

 大教会に到着すると、まず挨拶ということになりました。

 馬車を降りて、みんなで大教会の中に入ります。

 すると、前回も僕を担当してくれた治療施設担当の司祭様が出迎えてくれました。


「黒髪の天使様、本日も宜しく……」

「あら、シスターお久しぶりね。今や、司祭様になられたのですわね」

「ひ、ひ、ヒルダ様!」


 予想外の人物の登場に、司祭様が大きな声をあげちゃいました。

 そして、ヒルダさんのインパクトが大きすぎて、シロちゃんを抱いているクリスちゃんとユキちゃんと手を繋いでいるウェンディさんは完全にスルーされています。

 司祭様が急いで偉い人を呼びに行って、慌てて教皇猊下がやってきました。


「こ、これはこれはヒルダ様、お久しぶりでございます。体調も良くなられたそうで、我々も一安心でございます」

「教皇猊下も、相変わらずお元気そうで何よりですわ。今日は、孫とともに付属治療施設の治療に訪れましたのよ」

「そうでございましたか。きっと、入院している者も喜ぶと思われますぞ」


 ヒルダさんと教皇猊下がにこやかに話をしているけど、先週瀕死の重症だったヒルダさんが目の前にいるので教皇猊下ももの凄くビックリしています。

 ウェンディさんとクリスちゃんも教皇猊下に挨拶をして、僕たちは治療施設に向かいました。

 クリスちゃんとウェンディさんも、シロちゃんとユキちゃんと一緒に治療をするそうです。

 では、早速治療を始めます。


「ひ、ヒルダ様ではないですか!」

「ふふ、今日は孫と黒髪の天使様とともに治療にきたのですよ。お体はどうですか?」

「黒髪の天使様の魔法は凄いですぞ。体中の悪いのが、いっぺんに治っちゃったぞ」

「それは良かったですわ。お大事にして下さい」


 なんというか、ヒルダさんが改めて凄い人だって実感しました。

 特に年配の人に絶大な人気を誇っていて、今も僕が治療したおじいさんににこやかに話をしていました。

 ヒルダさんが病室に姿を現すだけで、一気に病室内が明るくなります。

 そんな中、ウェンディさんとクリスちゃんも一生懸命に治療をしていきます。


 シュイン、ぴかー。


「えっと、ど、どうですか?」

「良くなったわよ。ありがとうね、お嬢ちゃん」

「えへへ!」


 クリスちゃんは、シロちゃんと一緒に頑張っています。

 シロちゃんは治療の名手だし、クリスちゃんもお婆さんに褒められて嬉しそうにしていますね。


 シュイーン、ぴかー!


「凄いな、このコボルトは。あっという間に良くなったぞ」

「ふふふ、ユキちゃんは凄腕の治癒師なんですよ」

「オン!」


 ウェンディさんはというと、ユキちゃんと初めての治療なのに息のあった作業を進めています。

 しかも笑顔で患者に接しているので、患者もニコニコしていますね。

 こんな感じで、いつもよりかはゆっくりだけど確実に治療を進めていきます。

 ヒルダさんも、シスターさんを手伝ったりしているけど、とっても手際良く作業を進めていますね。

 何だか、とても慣れている感じです。

 大部屋を二つ治療し終えたところで、最初の休憩です。

 僕たちは、治療施設にある控え室に移動しました。


「はあ、ちょっと疲れました」

「気を張っていたのよ。甘いものを食べてましょう」


 ウェンディさんは元気いっぱいだけど、クリスちゃんは疲れちゃったみたいです。

 僕も、クリスちゃんの年齢の時には、治療して疲れちゃったもんね。


「ふふ、治療をしたり人と話すのはいい経験よ。色々な人と接することで、柔軟は考えが生まれるわ」

「「はい!」」


 ヒルダさんは、クリスチャンとウェンディさんに貴族令嬢としての考えを伝えていました。

 頭でっかちな考えだと、ヴァイス子爵みたいになっちゃうよね。

 十分に休憩をとったところで、早速治療再開です。


「その、一名重傷者がおりまして。工事中の事故で、右腕を失っております」


 途中案内された部屋で、シスターが沈痛な表情をしていました。

 ベッドには、表情が固い中年男性が天井を見上げていました。

 ここは、僕とシロちゃんの出番ですね。

 シロちゃんが、クリスちゃんの腕の中からピョーンと僕の頭の上に飛んできました。


「おじさん、こんにちは。僕とシロちゃんが治療をしますね」

「坊主、いいんだ。どうせ無くなった腕は戻らない、治療したって無駄だ」


 おじさんは、何だか色々なことを諦めているみたいです。

 きっと職人さんだったんだけど、働けなくなって色々なことを考えちゃったんだ。

 ここは、絶対に治療をしてあげないといけないね。

 僕とシロちゃんは、お互いに魔力を溜め始めました。


 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかーーー!


「ま、眩しい! これが、レオ君の魔法……」

「おにいさま、すごーい!」


 僕とシロちゃんは、一気に溜めた魔力を解放しました。

 おじさんのベッドを中心として複数の魔法陣が浮かび上がり、眩しい光が病室を包み込みました。

 バッチリの手応えがあったけど、果たしてどうでしょうか。


「な、なんじゃこりゃ! 腕が、右腕が生えているぞ!」


 おじさんはもの凄くびっくりしていたけど、治療はバッチリ上手くいきました。

 そして、びっくりしているおじさんにヒルダさんが手を握りながら優しく話しかけました。


「ふふ、流石は黒髪の天使様っていう治療ですわね。あなたは、こうしてもう一度職人として命を吹き込まれました。今まで腕を失った喪失感に絶望していたかと思いますが、その分強く逞しくなれるはずです。まずは、リハビリを頑張って下さいね」

「はい、グスッ、はい!」


 おじさんは、号泣しながらだけどはっきりと返事をしていました。

 こうやって言葉をかけているヒルダさんは、凛々しくてとってもカッコいいです。

 こうして、途中色々ありながらも治療は順調に進んでいきました。

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