第四百八話 午後も頑張って教えます

 大食堂に移ってみんなと食事をするのですが、オーガスタさんの午前中の様子を聞くためにマイスター師団長さんやバッツさん達も同席しました。

 スカラさんは、旦那さんのモーリスさんと仲良く昼食タイムですね。


「オーガスタ、治療はどうだったか?」

「はい、大部屋に入院している方でしたら問題なく治療ができるかと思います。あと、軍がレオ君の治療方法を研究している事にビックリしました」

「レオ君は優秀な魔法使いだが、キチンと魔法理論を持っている。なら、軍がその理論を理解できないはずはないよ。攻撃魔法も同じだ、派手な魔法ではなく効率的で確実な魔法の研究を行っている」


 おお、マイスター師団長さんは攻撃魔法の研究まで行っているんだ。

 流石は、武功をあげて出世しただけあるね。

 マイスター師団長さんの話した内容に、オーガスタさんが深く頷いていました。

 更に、バッツさんが言葉を続けました。


「軍も鍛え上げているぞ、何せ帝国との衝突が散発してやがる。いつ何が起こるか分からないし、特に治療部隊は後方支援に行く可能性が高い。オーガスタにも、治療部隊と共に訓練を受けてもらう事があるぞ」

「そこは覚悟しています。前線出なくても、中継地点で治療をする事がありますね」

「そういう事だ。何があるか分からないから、自分の身は自分である程度守る事も必要だ」


 オーガスタさんは、バッツさんの話も真剣に聞いていました。

 前線に行くということは、それだけ危険が伴う任務です。

 だからこそ、バッツさんも危機感を持って指導しているんですね。

 さてさて、昼食後はいつも通りにバッツさんと手合わせをします。


 カンカンカン。


「アン、アン、アン!」


 一足先に、シロちゃんとユキちゃんの手合わせが始まりました。

 何だかほっこりする光景だけど、やっぱりスライムがコボルトを指導しているのって凄いよね。


 カカカカーン!


「えい、えい!」

「そうだ、もっと打ってこい! どんどんと突っ込んでこい!」


 僕も、バッツさんにどんどんと打ち込んでいきます。

 一ヶ月頑張ったけど、やっぱりバッツさんには全然敵わないよ。

 でも、新たな僕の目標ができたね。


「れ、レオ君は剣技も凄いんですね。あの、バッツさんと打ち合っています」

「バッツも、相手ができるのがいなくて暇していたからな。生き生きとしているよ」


 オーガスタさんも剣技を扱うから、そのうちバッツさんと手合わせする事になるかもね。

 こうしてお昼休みの手合わせが完了したら、今度は修繕部に移ります。

 今度は、僕がオーガスタさんに魔石への魔力補充の方法を行います。


「魔石にも魔力が通る道があるんです。そこに魔力を流すとスムーズにできますよ」

「でも、これは簡単そうに見えて難しい作業ですね。魔力制御が問われます」


 オーガスタさんは難しいと言いながらも、直ぐに魔石への魔力充填のやり方を身に着けたよ。

 やっぱり、オーガスタさんは腕の良い魔法使いなんだね。


「この作業って、意外とコツが必要なんだよな。魔力を入れすぎると魔石が割れてしまう。訓練を兼ねて、たまに他の魔法使いにもやらせるぞ」

「とても良い訓練になると思います。微細な魔力制御が出来ると、効率もあがりますね」


 魔力充填が必要な魔石は常に発声するので、これからも軍の魔法使いを使って魔力充填作業を行うそうです。

 そして僕たちがお喋りしている間は、シロちゃんはユキちゃんに魔石への魔力充填方法を教えていました。

 ユキちゃんも、魔力操作が大分上達してきましたね。

 こうして順調にお仕事が進み、夕方前に僕たちは事務棟の師団長執務室に呼ばれました。


「オーガスタ、今日一日体験してみてどうだったか?」

「凄く高度な事をしていました。しかも、実技作業を通じて魔力向上をはかっているのが凄かったです」

「見た目重視の訓練など、式典以外何も役に立たない。だからこそ、ここでは実戦を意識した訓練を重視しているのだよ」


 オーガスタさんは安息日を挟んで週明けから実際に勤務を始めるけど、今日は本当に良い体験になったみたいですね。

 そして、マイスター師団長さんが僕に向き直りました。


「レオ君、一か月間本当に助かった。また、不祥事を起こして申し訳なかった」

「いえ、不祥事も良い経験になりました。僕の周りには良い人が多かったので油断していましたが、悪い人もいると改めて感じました」

「冒険者活動をするとなると、より感じるだろう。王都にいる間にも治療などを依頼する事があるから、今はまた会おうと言っておこう」


 僕とシロちゃんとユキちゃんは、マイスター師団長さんとがっちりと握手をしました。

 オーガスタさんとも握手を行いました。

 一か月間だったけど、濃密だったね。

 僕にとっても、とても良い経験になりました。

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