第三百四十七話 ナディアさんがナンパされちゃった!

 僕たちが女子更衣室から出ると、既にザンギエフさんたちが水着姿になってカウンターの前に集まっていました。

 うん、思った通りだけど上半身も太ももも筋肉ムキムキマッチョですね。


「おっ、来たな。中々似合っているぞ」

「髪も少しいじっているのか。何だか新鮮だ」

「髪色に合わせた水着か。良い感じだな」

「今年のトレンドを取り入れているのか。男は海パンのトレンドなんて、ねーからなあ」


 ザンギエフさんたちは、うんうんと頷きながらダリアさんの水着を褒めていました。

 海の家のおじさんもうんうんと頷いていて、ダリアさん達も少し頬を赤らめていました。


「おにーちゃんが女性を褒めている……」

「おい、妹よ。その珍獣を見るは何だ?」

「いやね、おにーちゃんが面倒見がいいのは知っているけど、いつものガサツな姿を見ているから」


 ナディアさんだけは平常運転で、ジト目で兄を見ていました。

 これは、いつもの兄妹のじゃれ合いレベルですね。

 ここで、おじさんが僕に話しかけてきました。


「レオは小さいから、子ども用の浮き輪を使ったほうが良い。レンタルもできるからな」

「浮き輪ですか?」

「おう、水に溺れない様に使う道具だ」


 おじさんが指を指した方を見ると、カラフルな色の輪っかが置いてありました。

 僕は、サイズが合うものを選んでおじさんに渡しました。


「はい、お金です」

「おう、ちょうどだ。楽しんでこいよ」

「「「「「レオ君、可愛い!」」」」」


 さっそく浮き輪を両手に持った僕の頭を、おじさんが撫でていました。

 しかも、ナディアさんとダリアさんも僕の頭を撫でていました。

 最後に、おじさんに荷物をまとめて預けて準備完了です。


「じゃあ、さっそく泳ぐか。海が初めてのものは、波打ち際に立つと面白いぞ」


 さっそく海の家を出てザンギエフさんが言う、ちょうど海と砂浜の境にやってきました。

 シロちゃんも、僕の頭の上からぴょんと波打ち際に飛び降りました。


 ザァー。


「わわわ、波で足裏の砂が流れて行きます。面白い感触ですね」

「おっ、レオは大丈夫か。子どもによっては、この感触が駄目なのがいるぞ」


 何とも言えない感触がして、僕もシロちゃんもビックリです。

 ダリアさん達も、おっかなびっくりって感じで波で砂の流れる感触を味わっていました。

 おや?

 ナディアさんの姿が見えないと思ったら、見知らぬ男性四人組に囲まれていたよ。


「ねーねー、君凄いレベル高いね。僕たちと遊ばない?」

「いやあ、まさか君みたいな美しい人と出会えるなんて思わなかったよ」


 あっ、あれが俗に言うナンパってやつなんだ。

 でも、確かに男性は美形だけど何だかドス黒いオーラを感じるよ。

 しかも、複数でナディアさんに言い寄っているのは、何だかおかしいよね。


「ごめんなさい、知り合いと来ていますので」


 当のナディアさんは、直ぐにそっぽを向いて僕たちの方に歩き出そうとしました。

 でも、ナンパしている四人組は引き下がらなかったみたいです。

 ナディアさんの手を掴んで、強引に引き留めようとしました。


「そんな、つれないことを言わないでさ。一緒に遊ぼうよ」

「痛っ」


 あっ、ナンパしている四人組の一人が強引にナディアさんの腕を掴んだので、ナディアさんは少し痛がっています。

 すると、ここで成り行きを見守っていた八人が一斉に動きました。

 しかも、ザンギエフさん達はナディアさんが痛がったので激おこです。


「おいこら! 俺の妹に何手を出しているんだ!」

「お、おにーちゃん……」

「へっ、はっ? お兄さん?」


 ナディアさんとナンパ四人組の間に割り込んだザンギエフさん達は、ガチギレモードでナンパ四人組を睨んでいます。

 その隙に、ダリアさんたちがナディアさんを引き離して僕のところに連れてきました。

 僕がナディアさんの治療をしようとしたら、シロちゃんがぴょんとナディアさんの肩に飛び乗りました。


 ぴかー。


 無事にシロちゃんがナディアさんを治療したけど、いきなり女性の腕を掴むことはないよね。


「ナディアさん、手首を捻っていました。でも、シロちゃんがもう大丈夫だと言っています」

「シロちゃん、ありがとうね。痛いのが良くなったわ。久々にしつこいナンパに合っちゃったわ」


 ナディアさんが肩に乗っているシロちゃんにお礼を言うと、シロちゃんもぷるぷると震えていました。

 ナディアさんは、過去に何回もナンパにあったんだね。

 あれ?

 今度は、ダリアさん達の姿がないよ。


 ひゅーん、ざばーん。

 ひゅーん、ざばーん。

 ひゅーん、ざばーん。

 ひゅーん、ざばーん。


 おお、ナンパしていた四人組が宙を舞って海に飛び込んでいったよ。

 海だから、投げられても大丈夫だね。


「本当に嫌な相手と再会したわ」

「まさか、この前私達をナンパしてきた連中だったとは」

「少し痛い目に合わないと分からないですね」

「でも、懲りない可能性もありますわ」


 なんと、ナンパ四人組を海に放り投げたのはダリアさん達でした。

 聞けば、二日前にダリアさん達をしつこくナンパしてきた四人組だったらしいです。

 僕は教会で治療していたから、全然知らなかったよ。


「がはっ、テメーなにしやがる!」


 海から顔を出したナンパ四人組の一人がダリアさん達に暴言を吐いているけど、この場には更に激おこな人がいます。


「ほう、お前らか。この街で、手当たり次第ナンパしている馬鹿は。苦情が出ていたらしいし、ちょうど良いから守備隊の出張所に連れて行くか」

「「「「はっ?」」」」


 どうもザンギエフさん達は、どこからかナンパ四人組の情報を聞いていたみたいです。

 街の人やダリアさん達だけでなく、自分の妹も被害にあったからね。

 しかも、ナディアさんは手首を捻挫しちゃったし。

 ザンギエフさん達は海からナンパ四人組を引きずり出し、ナンパ四人組の足を持って守備隊の出張所に向かいました。


「あちっ、あちあち!」

「熱い!」


 うん、海水浴場に来ている人全員がザンギエフさんに引きずられるナンパ四人組を見ていたけど、誰も助けに行きません。

 ナンパ四人組は熱い砂浜で背中を引きずられてとても熱そうだけど、僕もシロちゃんもあのナンパ四人組を治療する気にはなりません。


「よし、気を取り直して海に入りましょう!」

「「「「「おー!」」」」」


 ダリアさんの声掛けに、僕たちは声を上げて海に入りました。

 ナンパ四人組を守備隊に引き渡したザンギエフさん達も合流して、本格的に海で遊びます。

 因みに守備隊はナンパ四人組がナディアさんに暴行したのを見ていて、速攻で守備隊の詰め所に送り込んだそうです。

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