第三百二十話 ある意味笑顔のオリガさん

 僕達は男の子のお家から走ったので、守備隊の詰め所に着く前に荒海一家の構成員を担ぎあげて運んでいる一団に追いつきました。

 そしてみんなで守備団の詰め所に着くと、荒海一家のアジトに行っていた人たちも守備団の詰め所に来ていました。

 しかし、アジトに行っていた人たちは何だか疲れ切った表情をしていました。

 アジトは街から少し離れた山の中にあったそうだけど、行くのにそんなに疲れるのかな。

 一体何だろうと思ったら、守備隊の詰め所の奥からシロちゃんがぴょんぴょんとやってきて何があったかを教えてくれました。


「シロちゃん、何があったの? えっ、オリガさんが荒海一家の構成員を全員ぶん殴って倒した? しかも身体能力強化魔法も使っていない?」


 うん、一瞬シロちゃんが何を言っているか分からなかったよ。

 オリガさんがとっても強いのは何となく知っていたけど、身体能力強化魔法も使わずにアジトにいた人を全員倒したなんて。

 すると、荒海一家のアジトに行っていたゲンナジーさんとヒョードルさんが、物凄く疲れた表情をしながら詰め所の奥から出てきました。


「かーちゃん、まるで軍神の様な強さだったよ。誰も先頭を行くかーちゃんの事を止める事はできなかった。下手に話しかけると、自分も巻き込まれそうだったよ」

「かーちゃんがとんでもなく強いって聞いたことはあったけど、まさかあんなに強いとは思わなかったよ。ボスをぼこぼこにし終わった後、ボスを拘束してからシロちゃんに回復して貰ったぞ」


 うん、ゲンナジーさんが軍神の如くって表現するほど、オリガさんはとんでもなく強かったんだね。

 すると、詰め所の奥からいつもと変わらない笑顔でオリガさんが出てきたけど、職人さんと守備隊の人がオリガさんを見て思わずビクッってしていたよ。


「レオ君、お疲れ様ね。男の子のお母さんは大丈夫だった?」


 あっ、そうか。

 オリガさんは、男の子のお家であった事の情報を知らないもんね。

 でもこの時、僕はオリガさんに全部素直に話してしまいました。


「あの、男の子のお母さんは荒海一家から薬と偽って毒を飲まされていました。僕一人の回復魔法でも完治できなかったので、かなり危なかったと思います。男の子もお母さんに薬じゃなく毒を飲ませていたって知って、凄いショックを受けていました」

「ふーん。毒、ね。しかも、まだ子どもの心を傷つけるなんて……」


 ぞくぞく、ぞくぞく。


 全身の毛穴が逆立つって、こういうことを言うんだ。

 オリガさんは笑顔のままなんだけど、とんでもない怒気が溢れ出ているよ。

 シロちゃんも僕の腕の中でブルブルと震えてるし、職人さんや守備隊の人も若干顔色が悪くなっちゃったよ。


「じゃあ、私は荒海一家のボスともう一度お話してくるわ。あっ、そうそう。レオ君、ポーションを何本かくれないかしら?」

「はっ、はい! どうぞ!」

「ふふ、ありがとうね」


 僕が五本のポーションを渡すと、オリガさんはにっこりとしてから詰め所の奥に戻って行きました。

 僕たちは、ただ黙ってオリガさんを見送るしかありません。


 ドカン!

 バキン!

 ボコン!


 そして、まるで壁を殴るかの様な物凄い音が、詰め所の奥から聞こえてきました。

 でも、誰もが詰め所の奥に行くことができません。

 うん、僕もまさかここまでとは思わなかったよ。

 暫くの間壁を殴るような音が聞こえていたけど、ふと大きな音が止んでオリガさんがこちらに戻ってきました。


「ふう、ボスとのお話は終わったわ。レオ君、ポーションありがとうね」


 オリガさんはニコニコしながら僕の所に来たけど、その、両の拳が血塗れでお顔や服に返り血がついていました。

 しかも、五本あったポーションを全部使っちゃったみたいですよ。

 詰め所の奥で何があったかなんて、僕たちは絶対に聞けません。


「戻った……うお! お、オリガさん血だらけですよ!」

「あら、これはいけないわ。レオ君、生活魔法で綺麗にしてくれるかしら」

「直ぐにやります!」


 ここでどこかに行っていた守備隊長のマックスさんが詰め所に戻ってきたけど、返り血を浴びて微笑んでいるオリガさんを見てかなりビックリしちゃったよ。

 僕は直ぐにオリガさんを生活魔法で綺麗にしたけど、未だに血塗れのオリガさんの姿が脳裏に残っているよ。


「マックスさん、ボスは随分と大人しくなりましたわ。色々な事を話してくれたので、隊員さんに記録して貰ったわ」

「はい、それは良かったですね」


 マックスさんも、思わずオリガさんの方を見て直立不動になりました。

 うん、その気持ちは良く分かります。


「私達ができることはここまでですね。もし何かありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。ザンちゃん達もレオ君も、宿に帰るわよ」

「「「「はい!」」」」


 オリガさんが僕達に声をかけると、ザンギエフさん達がとても大きな声で威勢よく立ち上がりました。

 僕もシロちゃんも、思わず背筋がピンとしちゃったよ。

 あっ、でもこの事は言わないと。


「明日、男の子のお家に行ってお母さんを治療してから造船所に行きます」

「おう、分かった。しっかりやってこいよ」


 僕だけじゃ男の子のお母さんは治療できなかったから、明日はシロちゃんと一緒に完治させないとね。

 この場にいる全員がオリガさんに敬礼している中、僕はオリガさんとザンギエフさん達と一緒に宿に帰りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る