第三百十六話 事件発生
そして三日目の午前中の仕事中、少し大きな事故が起きてしまいました。
それは、木材のカット作業が一段落してみんなで休憩しようとした時でした。
シュパッ、がこん。
「よし、これで一段落だな。少し休憩する……」
ズドーーーン!
「な、何だ何だ?」
「荷が落ちたか?」
職人さんが休憩にしようと言った時に、大きな地響きが聞こえてきました。
作業をしている倉庫の外で何かが起きたみたいなので、みんなで音のした方に走って行きました。
「う、ううう……」
「「あ、ああ……」」
「おい、手を貸せ!」
「木材を片付けるぞ!」
倉庫の外に出ると積荷の木材が崩れていて、あの男の子の一人の足に崩れた木材がのしかかっていた。
足を挟まれた男の子は苦しそうにうめいていて、突然の出来事に他の二人も尻もちをついたまま動けなかった。
直ぐに大勢の職人が集まり、男の子の足を押しつぶしている木材に手をかけた。
「持ち上げたら、直ぐに子どもを引っ張り出せ!」
「がってんだ!」
「「「せーの!」」」
ガコン!
ズルズル。
「うあっ、うう……」
「よし、これで大丈夫だ。降ろしていいぞ」
「分かった!」
ガコン。
おお、職人さんのパワーは凄いなあ。
大きな木材をみんなで持ち上げて、怪我した男の子を引きずり出したよ。
ここからは、僕とシロちゃんの出番だね。
「直ぐに治療します!」
「おう、やってくれ」
「うっ、うう……」
今回は重度の足の骨折なので、僕とシロちゃんもフルパワーです。
全力で魔力を溜め始めました。
シュイン、シュイン、シュイン。
ぴかー!
「あれ、あれ? あ、足が治っている。痛くない!」
「す、凄い! これが、黒髪の魔術師の全力の魔法か」
「あんな大怪我なのに、直ぐに治ったぞ!」
僕とシロちゃんの魔法で、男の子の足は綺麗に治りました。
治療を受けた男の子は信じられないという表情で自分の足をペタペタと触っていて、他の人も目を真ん丸にしていました。
「おい、何があったんだ?」
「あの、その……」
「えっと……」
ザンギエフさんが、他の二人の男の子に話しかけました。
男の子はちょっと迷ったけど、意を決して話し始めました。
「あの、ちょっとイタズラをしようとして、積荷の木材を揺すったんです」
「そうしたら、突然一番上にあった木材が崩れてきて……」
積荷の木材を揺すって、崩そうとしたのかな。
でも、男の子の話を聞いた職人さん達が一斉に腕を組み始めました。
「おい、こんなでっかい木材の山を、子どもが少し揺すっただけでそんなに簡単に崩れるか?」
「いつも大人が押しても崩れないように木材を積むぞ」
「だよな。何かおかしいぞ」
職人さんが何人も力を合わせないと持ち上げられない、大きな木材だもんね。
積み上げるにも、専用の滑車とかを使わないと持ち上げられないはず。
「おい、積荷班はどうした?」
「うん? さっきまでいたはず……おい、どうした!」
「コイツが適当に木材を積んでやがった!」
「「「はあ?」」」
ここで、僕たちの後ろから、一人の男を羽交い締めにしている職人さん達がいたよ。
適当に木材を積んだとなると、かなり怪しいね。
そんな事を思っていたら、ザンギエフさんが僕に話しかけてきました。
「レオ、俺が許可する。羽交い締めになっている奴を鑑定しろ」
「あっ、はい。直ぐにします」
「そういう事か、あんちゃん、俺も理解したぞ」
「だな。コイツだったか」
ザンギエフさんだけじゃなくて、今日一緒だったゲンナジーさんとヒョードルさんが手に縄を持っていました。
僕もシロちゃんも何となく分かったけど、急いで鑑定しないと。
シュイン。
「あっ、所属に荒海一家って出てきました!」
「やっぱりな。ゲンナジー、ヒョードル、逃げられない様にコイツを簀巻きにしろ!」
「とうとう尻尾を出しやがったな」
「コイツが、影で子どもを操っていたのかよ」
「がっ、くそ、離しやが、フガフガ」
みんなで寄って集って、荒海一家と出てきた者を拘束しました。
猿轡までしてあるから、絶対に動けないね。
「ふう、こんなもんだな。おい、コイツに色々と指示されていたな」
「うん、そうです。本当は、こんな事したくなかった。でも、やるしかなかったんだ」
「かーちゃんが突然具合悪くなって、薬をやるから俺らの手伝いをしろって。でも、薬を飲んでもかーちゃんは良くならなくて……」
「最初のイタズラをした時に、その人に見ていたぞと脅迫されて。うぐっ、弟や妹を殺すって言われて……」
泣きながら話す男の子の事を、僕たちは真剣に話を聞いていました。
シロちゃんが大丈夫って言っているから、これは本当の事なんだね。
母親ばかりか、弟と妹まで脅迫されていたんだ。
ザンギエフさん達だけでなく、職人さん達の怒りのボルテージが上がっていっているよ。
すると、騒ぎを聞きつけた所長さんと食堂のおばちゃんがやってきました。
そして、食堂のおばちゃんは直ぐに男の子三人の所に行きました。
「話は聞いたよ、それは辛かったね。だけどね、実際にイタズラはしたんだ。そんな時は何て言うんだい?」
「「「ごめんなさい! イタズラして、ごめん、な、さい!」」」
「もう大丈夫だよ、怖かったね。悪い事をして叱ってやる父親がいなくて、辛かっただろうねえ」
「「「うわーん、ごめんなさい!」」」
食堂のおばちゃんも、涙を流しながら嗚咽が止まらない男の子をきつく抱きしめていました。
暫くの間、男の子の大きな泣き声が造船所内に響いていました。
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