第三百十七話 作戦開始
男の子達が泣き止むまで暫く掛かりましたが、その間に守備隊が複数人やってきました。
所長さんとマックスさんが経緯を話をしていた時、ちょっとしたトラブルが。
つるっ、こけっ、バチン!
「ぶっ!」
「ぶはは! お前何をしているんだよ!」
「いーひひひひ。何もない所で転んで、顔面を木材に打ってやがるよ」
「なんだ? 自ら体を張って、場の笑いを取りにいったか? あははは!」
なんと、一人の職人さんが何も無い所でこけて、木材の積荷に顔をぶつけちゃいました。
幸いにして、鼻血が出ているくらいで済んでいますね。
鼻骨も折れていないし、何よりも本人が恥ずかしがって治療はいらないと言っています。
とっても暗かった場の雰囲気が、一気に明るくなっちゃいました。
ここで、所長さんがとある提案をしてきました。
「ちょうど良いタイミングで怪我をしたのがいるな。荒海一家を騙す為に、重傷者の振りをするか。事務所に担架があるから持って来い。お館様の屋敷に重傷者を運ぶぞ」
「うむ。護衛の為に、隊員も付けよう」
「えー! 俺が重傷者扱い?」
「ぶはははは! は、鼻血で重傷者。は、はらいてー!」
「よっしゃ、ここは手早くやるぞ!」
「そうだな。派手に騒げば、奴らも企みが成功したと勘違いするな」
あっ、悪乗りした職人さん達がめちゃくちゃ張り切っているよ。
ダッシュで事務所から担架を持ってきて、ついでに包帯まで持ってきました。
しかも、包帯を頭に巻いて鼻血も付くおまけ付きです。
「行くぞ! 重傷者様のお通りだ!」
「どけどけ! お館様の屋敷まで一直線だ!」
こうして、偽装重傷者を乗せた担架が、守備隊の護衛付きで領主邸に向かいました。
しかも大声を上げているし実際に木材が崩れた時は大きな音がしているので、街の人も担架を見て何事かと思っています。
「でだ、この馬鹿は奴らに気づかれない様に守備隊の詰め所に運ぶぞ。そうだな、麻袋でもかぶせるか」
「おっ、ちょうど良い大きさのがあるぞ」
「フガフガ!」
そして、捕まえた荒海一家の者は、ザンギエフさん達によって麻袋に入れられて守備隊の詰め所に運ばれました。
うーん、一見すると人さらいに見えるね。
「さて、君たちのやったことはほぼ実害はない。これからは、何かあったら周りの人に相談する事だよ。分かったかい?」
「「「はい!」」」
「うん、良い返事だ。ただ罰として当分の間、安息日ごとに一週間何をしたかを報告して貰おう」
男の子達は、一種の執行猶予扱いですね。
マックスさんが男の子達の頭を撫でて、そして反省を促していた。
職人さん達も、男の子達とマックスさんのやり取りをうんうんと頷きながら見守っていました。
「それで、次に君たちの家に荒海一家がやってくるのはいつかな?」
「今日の夕方、帰る頃です」
「いつも五人できます」
「でも、今日はもっと多く来るかも……」
男の子達がマックスさんに素直に言うと、職人さん達が拳をぽきぽきと鳴らしていました。
「という事は、ボウズ達の所に来る連中と、捕まえた奴の供述で分かったアジトに行く者の二つに分かれるな」
「少なくとも、五人以上は相手になるな。まあ、人数は大した事ないな」
「この街に住む者に手を出したんだ。荒海一家には、報いを受けて貰わないとな」
おお、職人さん達がまたもや怒りの炎でメラメラとしているよ。
しかも守備隊の人も、めちゃくちゃ怒っているよ。
ここで、守備隊の詰め所に捕まった荒海一家の者を運んでいたザンギエフさん達が帰ってきたよ。
でも、何だか様子がおかしいね。
困惑した表情をしているよ。
「所長、隊長、捕まえたあの馬鹿、よりによってうちのかーちゃんに喧嘩売っちゃったよ」
「「「はあ? それって自殺行為だぞ」」」
所長さんとマックスさんだけでなく、職人さんや守備隊の人もビックリしています。
でも、僕もシロちゃんもみんなの気持ちが分かるなあ。
あのオリガさんに喧嘩を売るなんて……
「本当にたまたまなんだけど、宿に忘れ物があったからかーちゃんとナディアが守備隊の詰め所に届けに行ったんだって。そうしたら、猿轡を外したあの馬鹿が、『宿の年増ババア』ってかーちゃんに言ったんだよ。本人としては、かーちゃんを威嚇したつもりらしいな」
「はあ? そいつ本当に馬鹿だな。あのオリガさんに喧嘩売るとは」
「そうですね。自殺行為にも程がありますよ」
「だよなあ。かーちゃん、笑顔のまま馬鹿の足を引っ張って独房に消えたよ。暫くの間人間じゃない悲鳴が独房から聞こえてきて、かーちゃんが戻ってきたら奴がアジトの場所をゲロったって言ってたよ」
人間じゃない悲鳴の話を聞いたみんなが、思わずブルブルと震えちゃいました。
もちろん、僕とシロちゃんも体を抱きしめる様にブルブルと震えちゃったよ。
うん、荒海一家はこの街で絶対に喧嘩を売ってはいけない人に喧嘩を売っちゃったんだ。
この時点で、荒海一家の壊滅が決まったものだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます