第二百十七話 新しい魔法を覚えたよ

 サンダーランド辺境伯領への旅も九日目ですが、今日も街道の土砂崩れ現場の復旧に行きます。


「レオ君、体調は大丈夫かい?」

「いっぱい寝たので、元気いっぱいです!」

「ははは、それは頼もしいな」


 朝食時に子爵様が昨日魔法を使った僕の体調を気にしてくれたけど、魔力も全快して体調もバッチリです。

 子爵様はお仕事があるので屋敷に残り、僕とシロちゃんは子爵領の兵の馬車に乗って土砂崩れ現場に行きます。


 ガヤガヤガヤ。


「どんどんと運ぶぞ」

「こっちも手伝え」


 おお、今日は沢山の人が土砂崩れ現場にいるよ。

 服装からすると、兵に混じっているのは街の人っぽいね。


「沢山の人が集まっていますね」

「街道が塞がると、街の人にとっては致命傷ですから。できるだけ早く、街道を開通させようとしているのです」


 一緒にいた兵が答えてくれたけど、何日もサンダーランド辺境伯領と途絶えていたら、生活に支障がいっぱい出そうだね。

 現場には炊き出しの為のスペースと、治療の為のスペースもあるね。

 何人か救護スペースに並んでいるので、先ずは治療から始めないとね。

 僕とシロちゃんは、早速救護スペースに向かいました。


「あの、僕とシロちゃんは回復魔法が使えるので、お手伝いします」

「あら、ありがとうね。助かるわ」


 救護スペースでポーションを使って怪我をした人の治療をしていたのは、若いシスターさんでした。

 僕とシロちゃんは、早速怪我をした人の治療を始めました。


「うーん、腰だけじゃなくてもしかして二日酔いもありますか?」

「ははは、坊主よく分かったな」


 腰や肩を痛めている人が多いけど、中には二日酔いの人もいます。

 酔っ払った状態で作業をしたら危ないよね。

 現場で三十分間、僕とシロちゃんは治療に専念しました。

 治療をした人全員が、元気よく作業に戻って行きました。

 ふうっと一息つくと、若いシスターさんが僕に声をかけてきました。


「あの、違ったらごめんなさいね。もしかして、黒髪の天使様って呼ばれているレオ君かしら?」

「ああっ! 自己紹介していませんでした。僕はレオです。このスライムは、シロちゃんです」

「良いのよ、私こそいきなり治療を手伝ってもらっちゃってごめんね。しかし、流石の手際の良さだわ」


 若いシスターさんが僕とシロちゃんを撫で撫でしてくれたけど、挨拶を忘れたのは失敗でした。

 ちょっと反省しています。


「あの巨大な壁を、レオ君が魔法で作ったの?」

「はい、二次災害が起きないようにしました。とっても固く作ってあるので、岩が土壁にぶつかってもへっちゃらです!」

「さ、流石は黒髪の天使様です……」


 僕はニッコリと答えたけど、何故か僕の横でシロちゃんがドヤ顔をしていました。

 さて、この後はどうしよう。

 僕はまだ力が弱いから大きいシャベルは持てないし、スコップだととっても時間がかかっちゃう。

 魔法で吹き飛ばす訳にもいかないし、うーんどうしよう。


「あっ、確かこんな時に役に立つ魔法があったよ」


 僕は魔法袋から魔法の本を取り出して、ぺらぺらとページをめくりました。


「あった! 念動って魔法だね。えーっと、対象を魔力で包んで動かすイメージなんだ。無属性魔法だから、シロちゃんにも使えるかもね」


 物を魔法で動かすのを、魔法の本に書いてあったんだ。

 まだ試した事のない魔法だから、先ずは小さな物で練習しよう。


「よし、最初に小さな石で試してみよう。えっと、石を魔力で包む感覚でっと……」


 ぽこ、ふわ。


 初めての魔法だったけど、何とか上手くできた!

 シロちゃんも石を動かしているから、上手に念動ができているね。


「シスターさん、早速念動で皆のお手伝いをしてきます」

「レオ君、私も一緒に行くわ」


 僕とシロちゃんは、少しテンションが上がりながらシスターさんと一緒に現場に向かいました。


「麻袋借りますね」

「おお、それは良いんだが、どうするんだ?」


 僕は、現場の人から一枚の麻袋を貰って早速念動を試してみます。


「えーっと、このくらいの土の量で良いかな?」


 しゅーん、ぼこ、ドサッ。


 僕は麻袋を両手で開いて、ちょうど良い位の土を念動で取って麻袋の中に入れました。

 シロちゃんも上手い具合に、麻袋に土を入れていました。


「あー! 僕まだ麻袋を縛れないです……」


 僕だけでなく、シロちゃんもしまったという表情に変わってしまいました。

 麻袋に土は入れられるけど、この後はどうしようか……


「ははは、黒髪の魔術師様もまだまだこれからだな。どんどんと麻袋に土を入れてくれればいいさ。後は俺等が運んでやるぞ」

「うう、すみません……」

「なに、これは俺等の街の事だから当たり前だ。教会のねーちゃんも、救護スペースに戻って良いぞ」

「すみません、お願いしますわ」


 せっかく上手くいったと思ったけど、全部を一人でやるのはまだまだでした。

 でも、僕とシロちゃんでもお手伝いができると分かったので、どんどんと麻袋に土を入れて行きました。

 そして、街の人に麻袋を運んで貰います。

 こうして昼食までの間、僕とシロちゃんはひたすら念動で土を麻袋に入れていきました。

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