第二百十六話 土砂崩れが発生しちゃった
サンダーランド辺境伯領への旅も八日目です。
問題なければ、今日サンダーランド辺境伯領に入ります。
そう、何も問題なければ、です。
「お館様、大変です。街道沿いで、土砂崩れが起きている現場が見つかりました」
「何だと!」
子爵夫妻様と男爵夫人様と共に食堂で朝食を食べていると、焦った表情をした執事さんが食堂に飛び込んできました。
思わず子爵様が椅子から立ち上がっちゃったけど、街道が塞がっていると大問題だもんね。
「よし、直ぐに行こう。レオ君、すまないが君の魔法が必要になるかもしれない。私と共についてきてくれないか?」
「もちろんです!」
子爵様は息子の事で僕に助けを頼みづらいみたいだけど、土砂崩れは息子のせいではないし困っている人がいるなら助けないとね。
僕は急いで朝食を食べて、シロちゃんと共に子爵と執事さんが乗る馬車で現地に向かいました。
「わあ、結構崩れていますね」
「夜中に崩れたので、巻き込まれた人はいないそうです」
「それは不幸中の幸いだ。街道の片側だけでも、早急に開通させたい」
崖の反対側の街道の端に行っても、僕の腰の高さくらいまで土砂が来ていました。
幸いにして、僕が全力で走って三十秒くらいの長さでおさまっています。
子爵様の言う通り、街道の幅の半分でも通れれば、道は開通します。
既に多くの兵が出ていて、麻袋に集めた土砂を入れていました。
「子爵様、袋に集めた土はどうするのですが?」
「土のうとして、崩れた崖の修復に使う。崩れた場所の補強につかうぞ」
崩れた土砂を、うまく有効活用しているんだね。
じゃあ、先ずは土砂をかき集める作業の邪魔にならないように、崖が崩れない様にしないと。
「えっと、子爵様の背の高さ程の壁を作ります。万が一崩れても大丈夫な様に、頑丈にしますね」
「すまないが、やってくれるかな?」
子爵様の許可も出たので、僕は両手に魔力を溜め始めました。
しゅーん。
「よし、これで魔力は大丈夫。魔法を放ちます」
「分かった。おおーい、黒髪の魔術師が土砂崩れを防ぐための壁を作る。土砂崩れとは反対の方に寄るように」
子爵様が作業をしている兵に声をかけて兵が退避したのを確認してから、僕は魔法を放ちました。
しゅーん、ドンドンドン!
「ふう、こんな感じでどうでしょうか。かなり固いので、岩が壁にぶつかっても大丈夫です!」
「あ、ああ……レオ君、ありがとう……」
「な、何だこのでたらめな魔法は……」
「黒髪の魔術師の噂話よりも、もっと凄いぞ」
コバルトブルーレイクの村で、盗賊が逃げないための土壁を作った経験があって良かった。
中々の出来に、僕はとっても満足です。
子爵様や周りの人は僕の魔法にとってもビックリしていたけど、安全に作業した方が良いよね。
「ふう、でも流石にいっぱい魔力を使っちゃったので疲れちゃった」
「いやいや、この土壁を作って疲れたくらいで済むなんて。やはりレオ君はとんでもない魔法使いだ」
今回はかなりの強度の土壁を作ったので、沢山の魔力を込めちゃいました。
でも、これなら再び土砂が崩れるのを気にしなくても良いから、きっと作業も捗るよね。
「えっと、私はサンダーランド辺境伯に連絡をしないとならないから、一度屋敷に戻る。引き続き、作業を頼むぞ」
「はっ、お気をつけて。我々も黒髪の魔術師に負けない様に頑張ります」
「ハハ、頼もしいな」
子爵様が現場の指揮官に指示を出して、僕達は馬車に乗って屋敷に戻りました。
この分だと、もしかしたら数日は足止めになっちゃうかもね。
「あなた、レオ君、お帰りなさいませ」
「お帰りなさい」
「ああ、私はサンダーランド辺境伯に一連の連絡をするので執務室に行く。レオ君が物凄い大魔法を使って疲れているので、甘い物を出して休ませてやってくれ」
子爵夫人様と男爵夫人様が僕を出迎えてくれたけど、子爵様はとっても忙しそうだね。
僕は、再び食堂に案内されました。
「わあ、とっても美味しそうです!」
「ふふ、お腹空いちゃったのね。沢山食べてね」
「こう見ると、息子の小さい頃を思い出すわ」
僕とシロちゃんの前に出されたのは、とても美味しそうなパンケーキでした。
実際に食べてもとても美味しくて、僕は思わずニコニコしちゃいます。
「しかし、執事の話を聞いてもいまいちピンとこないわ。土砂崩れが再発しても大丈夫な程の、物凄い土壁を作るなんて……」
「きっと、レオ君だからこそ出来るのだと思いますわ」
子爵夫人様と男爵夫人様が僕の魔法について色々と言っているけど、僕は目の前のパンケーキに夢中です。
頑張ったご褒美として、とっても嬉しい物ですね。
かちゃ。
「おお、皆ここにいたのか。サンダーランド辺境伯も、復旧の為の部隊を送ってくれるそうだ」
「上手く行けば、早めに街道が復旧しそうですね」
「あのレベルの土砂崩れが、数日で仮復旧するのは過去に例はない。とはいえ、今回はレオ君の魔法もあってか上手く行きそうだ」
子爵様も、表情が朝よりも明るくなっていました。
明日も復旧作業は続くから、僕も魔力が戻ったらお手伝いしないと。
「では、私はこの辺で失礼します。土砂崩れの復旧のお手伝いが出来ずにいて、本当に申し訳ありません」
「いやいや、これは子爵領で起きた事だから気にする事はない。こちらこそ、息子がそなたに迷惑をかけた。道中気をつけてな」
そして、昼食の後に男爵夫人様は男爵領に帰っていきました。
男爵夫人様がいれば、きっと男爵領も上手くいくはずです。
僕は遠ざかる馬車を見送りながら、そんな事を思いました。
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