第二百十五話 お隣の子爵領に到着です
「では、行ってくるわね」
「お母様、レオ君、行ってらっしゃいませ」
玄関で息子さんに見送られながら、僕とシロちゃんと男爵夫人様は馬車でお隣の子爵領に向かいます。
「我が男爵家は代々女性が生まれやすいみたいで、私も姉妹ばかりでした。そこで、隣の子爵領から三男を婿に貰いました。しかし、夫婦生活も形式的なもので息子が生まれてからは更に自分勝手になりました。ずっと心の中で、貴族なら贅沢をして当たり前って思っていたらしいです」
馬車の中で男爵夫人様の愚痴を延々と聞かされていたけど、ずっと苦労が絶えなかった結婚生活だったみたいですね。
しかも自分勝手な統治をして色々と問題を抱えていたので、僕の件があって遂に堪忍袋の緒が切れたんだ。
「どうも前々から、レオ君の力を利用して更に金儲けをしようと企んでいたらしいわ。そこに、たまたまレオ君が男爵領に来たという話を聞いて囲ってしまうと考えたみたいです。平民なら貴族の言う事を聞くだろうと、あの人は思っていた様ですね」
更に男爵夫人様が話を続けたけど、あの男爵様は僕の事を金儲けの道具としか思っていなかったんだ。
流石に僕もシロちゃんもそれはないなあと思っちゃったけど、今までに貴族は偉いんだという人にあった事があるから、やっぱりそういう考えの人は一定数存在するんだと思っちゃいました。
結局お喋りをしていたらあっという間に時間が経っちゃって、いつの間にか子爵領に到着していました。
そのまま、馬車は子爵領の屋敷に向かいました。
先触れの人が屋敷に行っていたのか、既に屋敷の前では中年夫婦が待っていました。
僕とシロちゃんと男爵夫人様は、馬車から降りて待っていた人に挨拶をします。
「お義父様、お義母様、突然の訪問となり申し訳ありません」
「いやいや、君が謝る事ではない。それに、本来なら君に義父と呼ばれる資格がない事も分かっている」
「そうよ、こんな状況なのに私の事を義母と呼んでくれる貴方に、申し訳なく思うわ」
間違いなく、ちょっと白髪の混じった茶髪の品の良い夫婦は子爵夫妻様ですね。
子爵夫妻様は、男爵夫人様を固く抱きしめていました。
そして、子爵夫妻様は僕に向き直りました。
「君が、かの有名な黒髪の魔術師のレオ君だね。息子がとんだ迷惑をかけた」
「こんな小さな子に乱暴をするなんて、本当に申し訳ないわ」
子爵夫妻様は、僕にも申し訳なさそうに謝ってくれました。
玄関で話すのもあれなんで、僕達は応接室に向かいました。
「あんな馬鹿な息子とはいえ、親としては何とかしてやらないと思っていたのだよ。馬鹿な子程可愛いといったもんだな」
「躾や教育も、上の二人と変わらずに行ったのですが。隣の男爵領で婿を募集していると聞いたので、三男を婿に出しました。お隣のお嬢様はとても素晴らしい人ですし、領主になれば気持ちも変わると思ったのですが、逆に派手な生活を好む様になりました」
子爵夫妻様がガクリとしながら、事の経緯を話してくれました。
子爵夫妻様も男爵夫人様も、あの男爵様には出来る限りの事をしてきたんだね。
それを、一瞬にして駄目にされちゃったんだ。
「えっと、この後はどうするのですか?」
「当主は孫にして、息子は我が家が引き取る。もう、息子とは言えないな。軍に入れて、強制的に性根を叩き直すしかない。それでも駄目なら、強制労働で鉱山に送る。あと、フランソワーズ公爵家とマリアージュ侯爵家にも、経緯をしたためた手紙を送ろう」
「男爵家にも賠償金を支払わないとならないけど、レオ君にも賠償金を支払うわ。息子の財産を整理した後になって申し訳ないけど」
「男爵家としても、レオ君に賠償金を支払わないとならないわ。レオ君を呼び出したのは、他ならぬ男爵家ですわ」
僕への賠償金の問題にもなっちゃったけど、あの男爵様にはかなりキツイ運命が待っていそうですね。
直ぐに気持ちは変わらないと思うけど、何とか良い方向に向かって欲しいね。
「レオ君は、屋敷に泊まってくれ。謝罪までとはいかないが、精一杯もてなそう。レオ君の噂話も聞いてみたい」
「すみません、ありがとうございます。僕の話でしたら幾らでも話しますよ」
「レオ君の武勇伝を、私も聞いてみたいわ。噂に名高い黒髪の天使様の逸話だものね」
「男爵領でならず者を捕まえた話も聞いてみたいわ。凄い魔法を使ったって話を聞いているのよ」
暗い話は終わりになって、ここからは僕の話をする事になりました。
僕がした事を話すと、子爵夫妻様も男爵夫人様も目を輝かせていました。
シロちゃんも凄いスライムだと分かった時は、皆ビックリしていました。
男爵家の屋敷で思わぬトラブルに巻き込まれたけど、こうして新たな人と出会えたのは良い結果になったね。
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