第二百十三話 何故か男爵様と面会をする事に

 サンダーランド辺境伯領への旅路も七日目なのですが、今日は朝から大問題が発生しました。


「レオ君、申し訳ないけどお館様からの使いが宿の前に来ているわ」


 朝の訓練も終えて着替えて朝食を食べようとした時、宿のおかみさんが僕に申し訳なく言ってきたんだ。

 僕もシロちゃんもとってもビックリしちゃったけど、とりあえず荷物をまとめて宿の前に行きました。

 すると、大きな馬車が宿の前にドーンと停まっていました。


「君がレオ君ですな。朝早くから申し訳ありません。昨日のならず者の捕縛協力大儀であったとお館様が申しております。つきましては、是非ともお館様がレオ君に会いたいと申しております」


 そして、馬車から降りてきた執事さんが僕に丁寧に挨拶してきました。

 こ、これは断ると駄目なパターンなんだけど、何だか嫌な予感がするのは気のせいかな?


「あの、ちゃんとした服に着替えてきますので、ちょっと待ってて下さい」

「畏まりました」


 僕とシロちゃんは、一旦宿に戻ってチャーリーさんに作ってもらった服に着替えつつ宿の人に男爵様について簡単に聞いてみました。


「うーん、奥様はとても良い方なんだけど、お館様はちょっと、うーん」


 ああ、宿の人が言いよどんじゃったよ。

 こ、これは嫌な感じが更に増しちゃったよ。


「すみません、お待たせしました」

「いえいえ。では、馬車にお乗りください」


 僕とシロちゃんは、最大限の警戒をしつつ馬車に乗り込みました。

 そして、僅か数分で馬車は男爵家の屋敷に到着します。

 流石にアマード子爵家の屋敷よりは小さいけど、それでも結構大きな屋敷です。


「では、応接室にご案内します」


 馬車を降りた僕は、執事さんについていきながら屋敷の中に入りました。

 思ったよりも感じのいい調度品が、屋敷の中に飾られていました。

 街の人は男爵様をうーんと言いにくそうにしていたけど、パッと見はお金を沢山使っている感じではないね。

 そんな事を思っていたら、応接室の前に到着しました。


 こんこん。


「失礼いたします。レオ君をお連れいたしました」

「入ってくれ」


 おお、執事さんが僕の到着を告げると、応接室の中から少し迫力のある声が聞こえてきたよ。

 僕は改めて気を引き締めて、シロちゃんを胸に抱きながら部屋の中に入りました。


「失礼します」

「君がレオか、座ってくれ」


 部屋に入ると、茶髪で少し髪の毛が薄い小太りの男性と、金髪で細身のとても品の良さそうな女性がソファーに座っていました。

 この人達が、男爵様と男爵夫人様で間違いなさそうだね。

 でも、うーん、なんだろう、男爵夫人様は自然と気品が溢れているけど男爵様は精一杯偉そうにしているって感じがするよ。

 とりあえず、僕は促されるままソファーに座りました。


「初めまして、僕はレオです。このスライムはシロちゃんです」

「ふん。スライムの事など、どうでも良い」


 むっ、僕がシロちゃんの事を紹介したら、男爵様がむすっとしながら関係ないって感じのリアクションをしたよ。

 男爵様の行動に、僕もシロちゃんもちょっと嫌な感じになっちゃたよ。


「大魔法使いかと聞いていたが、まだガキか。まあ良い。レオ、男爵たるこの私に仕えて男爵領の発展に寄与するのだ」

「あなた、そんな言い方は……」

「お前は黙っていろ!」


 あっ、僕がこの屋敷に呼び出された理由が分かっちゃった。

 この男爵様は、魔法使いの僕の力を使って男爵領を発展させたいんだね。

 でも冒険者として依頼を受ける分ならまだしも、男爵家に使えるのはちょっと……

 何よりもとても威圧的だしシロちゃんもバカにしたから、僕の心の中で回答は既に決まっていたよ。


「えっと、お断りします」

「ふんふん、そうか。うん? 今、何と言った?」

「ですから、お断りします」


 どうも男爵様は僕が断ると思っていなかったらしく、ポカーンとした表情をしていました。

 ここは一気に畳み掛けようと思い、僕は魔法袋をゴソゴソと漁ってある物を取り出しました。


 コト、コト、パサ。


「こ、これは何だ?」


 僕が二つのメダルと一枚の手紙をテーブルの上に置くと、男爵様は何だろうとテーブルの上に置かれた物を見ていました。

 どうも、男爵夫人様はこのメダルと手紙がどんな物か直ぐに気がついたみたいで、これはってビックリした表情に変わりました。


「メダルはフランソワーズ公爵家とマリアージュ侯爵家の物で、手紙はコバルトブルーレイク直轄領の代官様からサンダーランド辺境伯様宛の手紙です」

「へっ?」

「僕は、各地で勉強をしつつ王都に向かう予定です。次の目的地はサンダーランド辺境伯領と決まっていて、代官様がわざわざサンダーランド辺境伯様宛に手紙を書いてくれました。あと、道中何かしようとする貴族が現れたら、僕はフランソワーズ公爵家とマリアージュ侯爵家と関係があると言ってくれと言われました」

「はっ?」


 僕がテーブルの上に出したメダルと手紙の説明をすると、男爵様が思わず固まっちゃったよ。

 これでこの件が済めばいいと思ったけど、そうはいきませんでした。

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