第二百十二話 食い逃げ犯を捕まえたよ
サンダーランド辺境伯領への旅も、いよいよ後半戦の六日目になりました。
昨晩は教会の施設を借りて、ゆっくりと寝る事が出来ました。
着替えも済ませて、準備完了です。
「一晩ありがとうございました」
「こちらこそ、黒髪の天使様をお迎えでき光栄でしたよ」
「レオ君、気をつけてね」
「本当に、色々ありがとうね」
僕とシロちゃんは、教会の人に挨拶をして馬車乗り場に向かいました。
今日はちょっと曇っているから、寒くならない様に厚着をしないとね。
シロちゃんも、今日は僕の頭の上じゃなくて胸元に入ってきました。
トコトコトコ。
僕とシロちゃんは、無事に馬車便に乗って街道を進んでいます。
「この先は、どんな所があるんですか?」
「この先は、小さな男爵領が続くぞ。まあ、森沿いを通る訳じゃないし、ゆっくりのんびりとした旅路だな」
御者さんがこの先の事を教えてくれたけど、ここ数日はトラブルもあったからのんびりした方が良いよね。
馬車も今日は旅行客っぽい男女六人が乗っていて、お互いにお喋りとかしていました。
僕も、ゆっくりと本を読もうっと。
魔法袋からポーション作りの本を取り出して、シロちゃんと一緒に読み始めます。
ぺらぺら。
今日は少し寒いだけで、本当に平和だね。
探索魔法を使っても周囲に全く反応しないし、全くトラブルも起きません。
お陰様で、集中して本を読む事が出来ました。
「うーん、ずっと本を読んでいたから、ちょっと疲れちゃったね」
僕は背伸びをしながら、シロちゃんに話しかけました。
馬車は相変わらず何も問題なく街道を進んで行き、夕方前には目的地の男爵領の領都に到着しました。
今日は、道中とても平和だったね。
僕は街中を移動して、宿を探す事にしました。
「えーっと、宿はどこにあるかな?」
僕は街中を歩きながら、宿を探しました。
すると、食堂の隣に宿を発見しました。
そして、僕とシロちゃんが宿に入ろうとした時でした。
ドン!
「わあ、あてて……」
急に誰かが食堂から飛び出したので、僕は突き飛ばされてしまいました。
「まてー、この食い逃げが!」
「ぐっ……」
尻もちを付きながら突き飛ばした人を見ると、中年男性が店員さんに追っかけられていました。
僕も突き飛ばされちゃったし、そもそも食い逃げは良くないよね。
僕は、手に魔力を溜めました。
「えーい!」
キラーン、ガシン!
「な、な、何だこれは?」
「はあはあはあ、これは魔法の檻?」
僕は尻もちをつきながらダークケージを放って、僕を突き飛ばした人を閉じ込めました。
僕を突き飛ばした人はダークケージを掴んで逃げ出そうとしたけど、逃げる事は出来ませんでした。
追いかけていた人も、とっても不思議そうな表情をしていました。
僕はおしりについた汚れをはたいて、二人に近づきました。
「君は、確かこいつに突き飛ばされた子どもだね。君が魔法を使ったのですか?」
「はい、僕が使いました。この人が食い逃げという事もありますが、僕も突き飛ばされたので」
「おい、俺をここから出せ!」
「そうか、何にせよ助かったよ」
「俺を放しやがれ!」
檻に閉じ込められた食い逃げ犯がギャーギャー騒いでいるけど、ここは無視をしよう。
その内にこの街の兵がやってきたので、僕は兵が食い逃げ犯を捕まえた所でダークケージを解除しました。
「コイツは、たらふく食べた所で俺はあの黒髪の魔術師の一行だから、黒髪の魔術師に食事代を請求しろと言ったんだ。おかしいと思ったのでその黒髪の魔術師は何処にいると聞いたら、突然逃げ出したんだ」
「有名人の関係者を名乗る、典型的な詐欺の手口だな」
食堂の人が兵に事情を話していたけど、またもや僕の名前を使った詐欺だったんだ。
うーん、何だかモヤモヤしちゃうなあ。
「君はどうしたんだ?」
「僕は、この食堂の隣にある宿に入ろうとしたんです。そうしたら、食堂からこの人が飛び出してきて僕を突き飛ばしました」
「それで、魔法で捕まえたのだな。小さいのに大した腕前……うん?」
僕も兵に事情を話すと、兵が僕の顔をジロジロと見てきました。
何かあったのかな?
「黒髪の小さな魔法使いで、スライム連れ。君はもしかして、レオ君かな? あの黒髪の魔術師の」
「あっ、はい。僕はレオです。何か、そんな二つ名で呼ばれています」
「「本物の黒髪の魔術師!?」」
どうも兵は、僕の特徴を知っていたみたいです。
そして、納得した様に拘束された食い逃げ犯を見下ろしました。
「はは、悪事はするもんじゃないな。これだけの魔法を使うのだからどこの大魔法使いかと思ったが、レオ君なら納得だ」
「というと、コイツは嘘をついた相手にあっさりと捕まってしまったのか。こいつは傑作だ!」
「うぐぐ、くそ……」
あわわわわ、何だか大騒ぎになっちゃったよ。
食堂からも人が出てきて、何が起きたかと僕達を見ているよ。
ど、どうしようかな……
「あ、あの、まだ宿の予約をしていないので、僕はこれで良いですか?」
「ああ、大丈夫だ。メインは食い逃げだからな。レオ君、犯人確保の協力に感謝する」
「「「うおー!」」」
な、何とかこの場から脱出する事が出来たけど、食堂から様子を見に来た酔っ払った人が大盛りあがりです。
この分だと、今夜は食堂を使えないね。
僕はトホホと思いながら、宿に向かって歩いて行きました。
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