第七十四話 サイオンさんの正体

 コンコン。


「儂じゃ、入るぞ」

「失礼します」


 サイオンさんに連れられて、とある部屋に入りました。

 部屋の中には、デイジーさんと全く同じ髪色をした男性二人と、教会の服を着た女性と冒険者の風貌の男性が立っていました。

 デイジーさんと同じ髪色の男性が、きっとデイジーさんのお父さんとお兄さんなんですね。


「父上、お帰りなさいませ。おや、そちらの子どもはどなたですか?」

「レオと言ってな、儂が村で体調を崩した際に治療をしてくれたのだ。まだ幼いが、小さな魔法使いの二つ名を持っておるぞ」

「レオです、よろしくお願いします」

「あ、今まさに小さな魔法使いの話題をしていた所なんです。レオ君、父上を助けてくれてありがとうね」


 僕に話しかけてくれた人が、デイジーさんのお父さんのウィリアムさんですね。

 でも、皆で僕の話をしていたって一体何だろうね?

 改めて自己紹介をしてくれる事になったので、僕もサイオンさんの隣に座ります。


「では、改めて自己紹介を。私は、このアマード子爵領の領主をしているウィリアムだ」


 うん?

 今、ウィリアムさんがアマード子爵領の領主をしているって言ったよね。

 もしかしてウィリアムさんが、アマード子爵領の子爵様?

 となると、ウィリアムさんのお父さんであるサイオンさんってもしかして……


「そういえば道中も先代様って言われていましたけど、サイオンさんってもしかして前の領主様ですか?」

「おお、そうじゃ。もう息子に領主を譲っているから、今はただの引退した爺だがのう。あと、呼び方はそのままでいいぞ」

「レオ君、父上はこう見えてフランクな性格なんだ。ああ、私もそのままでいいよ。レオ君みたいな小さな子どもから様付けで呼ばれたくはないのでね」


 あ、あっさりととんでもない事が分かってしまったぞ。

 でもとっても大きな屋敷だし、門もノーチェックで通過したのを考えると、サイオンさんが前の領主様ってのも納得できますね。

 しかもサイオンさんもウィリアムさんさんも、ニコニコしながら様付けは止めてくれと言われてしまいました。


「私がジョセフだよ。お爺様を治療してくれてありがとうね」


 ジョセフさんは滅茶苦茶美形で、茶色の髪を短く切り揃えていてとってもカッコいいね。

 美男美女の兄妹で、とっても絵になるね。


「俺はこのアマード子爵領の冒険者ギルドのギルドマスター、ガッシュだ。俺は別に呼び捨てでもいいぞ」


 細身で赤い髪のツンツン頭の中年男性が、この街のギルドマスターのガッシュさんです。

 呼び捨てでいいと言われたけど、僕はガッシュさんを呼び捨てでなんて呼べないよ。


「私がこのアマード子爵領にある教会の責任者のローラよ。そういえば、セルカーク直轄領に赴任した司祭が、重症の子どもを抱いた母親の所にレオ君が真っ先に駆けつけて、あっという間に子どもを治療したって言っていたわ」

「えっ、そんな事をあの司祭さんが言っていたんですか?」

「ふふふ、正しくはあの司祭が王都の教会本部に連絡したのを、美談としてこの国の全ての教会に周知したのよ。だからこの国の教会関係者は、全員レオ君の事を知っているわ」


 おお、まさかのまさかです。

 ローラさんから、とんでもない話を聞かされてしまったよ。

 僕の二つ名の件と言い、どんどん僕の事が広まっているなあ。


「ははは。レオよ、この国の人々は娯楽に飢えておる。小さい子どもが奇跡を起こしたと知れば、皆誰かと知りたがるのだ」


 サイオンさん、僕の頭をぽんぽんと撫でながら笑わないで下さいよ。

 うー、何だか恥ずかしくなっちゃったよ。

 あ、そうだ。

 丁度ギルドマスターのガッシュさんがいるから、手紙を渡しても良いか聞いてみよう。


「サイオンさん、セルカークの街のギルドマスターからアマード子爵領のギルドマスター宛の手紙を預かっているのですが、ガッシュさんに渡しても良いですか?」

「おお、良いぞ」


 あっさりとサイオンさんから許可が出たので、僕はガッシュさんに手紙を渡すと、ガッシュさんは一読して少し笑いながら他の人に手紙を渡していました。


「ははは、懸念事項が一気に解決したぞ。タイミングが良いとは正にこの事だな」

「ええ、そうですわね。本当にタイミングが良いですわ」


 ローラさんもニコニコとしながら僕の事を見ていたけど、一体何が書いてあったのかな?

 ここで、ウィリアムさんが僕に話しかけてきました。


「レオ君は、アマード子爵領ではどんな依頼をこなす予定かな?」

「僕は治療と薬草採取とポーション作りができるので、その三つをやります」

「うん、良い答えだ。手紙には、レオは暫くアマード子爵領で冒険者として活動します。小さいけど凄腕の魔法使いだから、適正な報酬を払ってやれって書いてあったんだよ。勿論、ちゃんと働いてくれた人にはきちんと報酬を支払うよ」


 セルカークの街のギルドマスターが、僕の事を心配して手紙を書いてくれたんですね。

 何か変な事が書いてあるかと思ったけど、問題ない内容で良かったなあ。

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