第七十話 宿場町に到着

 翌朝、僕は早めに起きて魔法と剣技の訓練をしてから身支度をします。

 旅行先でも、訓練は毎日しないとね。

 魔法袋に仕舞ってあったパンを食べて、部屋を生活魔法で綺麗にして出かける準備万端です。

 僕は部屋を出て鍵を閉めて、受付に向かいます。


「部屋の鍵を返します。ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方だよ。怪我人を治療してくれてありがとうね。また、利用してね」


 宿のおかみさんからも、昨日の食堂の件で褒められました。

 因みに治療した女性と一緒にいた男性は、守備隊から怪我した経緯を聞かれているので会えないそうです。

 ちょっと残念ですね。

 気を取り直して、僕は馬車乗り場に向かいます。


「おっ、レオか。昨夜は良く寝れたか?」

「はい、ぐっすりと眠れました」

「おお、そりゃ良かったな」


 馬車乗り場には、昨日セルカークの街から乗ってきた馬車便のおじさんがいました。

 これから、また馬車便の御者しながらセルカークの街に戻るそうです。

 と、ここでおじさんがとんでもない事を話し始めました。


「いやあ、昨日はレオの話で盛り上がったなあ。俺達はレオの事を良く知っているけど、他の街の人間はレオがどんな人物か謎だったみたいだな。で、レオが颯爽と怪我人を治療したから、レオは天使みたいな子供だなと口々に言っていたぞ」

「えー!」

「勿論、俺もセルカークの街に戻ったら、皆に話をするぞ。レオは元気にやっていますってな」


 おじさんがニシシって笑っているよ。

 絶対に誇張した内容で、僕の事を皆に話をするんだろうな。

 僕は思わずがっくりとしちゃったよ。


「おっ、そろそろアマード子爵領行きの馬車便が出るぞ。ほらほら、遅れないように乗っていけな」


 おじさんが誤魔化すように僕の背中を押してきたけど、実は本当にアマード子爵領行きの馬車便の出発時間になっていました。

 僕は馬車に乗り込んで、おじさんに手を振りました。

 さて、ここからまた新しい旅が始まります。

 僕も、気持ちを引き締めて行きます。


 からからから。


「おじさん、この街道ではオオカミと出ますか?」

「うーん、今の時期はあんまり出ないね。森の食べ物が少なくなる秋から冬にかけては、たまにイノシシとかも出てくるぞ」


 今は夏なんで山に食べ物がいっぱいあるから、森に入って下手に動物のテリトリーに侵入しなければ安全なんだって。

 そこら辺は、森に囲まれているセルカーク直轄地とは違うんだね。

 因みに、今回の同乗者は全く知らない人ばかりです。

 とはいえ昨日の食堂での件が既に広まっているらしく、たまに僕に話しかけてきました。


 からからから。


「段々と山道に入って来ましたね」

「アマード子爵領は鉱山が有名だが、実は山地の盆地に都市がある。なので、必然的に標高の高い所に行くんだ」


 アマード子爵領は、街の周囲を山が囲んでいるんだって。

 だから、アマード子爵領に行くためには山道を超えないと行けないんだ。


「とは言ったって、街道は整備されているから馬車便も全く問題なく行くぞ。まあ馬の疲労を考えて、宿場町は距離を短めに設定されているがな」


 確かに山越えとかをすれば、普段以上にお馬さんが疲れちゃうもんね。

 という事で、今日は昼食を食べる村にそのまま泊まる事になります。

 この村からアマード子爵領の領都までは半日ちょいかかるので、また明日の朝別の馬車便が出発します。


「わあ、色々な物が売っているなあ」


 村といっても宿場町なので、一通りのお店は揃っています。

 昼食後に観光を兼ねて、村をぶらぶら歩いています。

 因みに、もう宿もバッチリと押さえてありますよ。


「あれ? これは何だろう?」


 あるお店で売られていたのは、乾燥した果物でした。

 今まで乾燥した果物は食べたことがないから、とっても不思議です。


「あら、ドライフルーツを初めて見たの?」

「ドライフルーツ、ですか?」

「そうよ。保存が効くように、果物を乾燥させたものよ」


 店のお姉さんが、僕の疑問に答えてくれました。

 確かに、生よりも乾燥させた方が長時間保存できそうですね。

 すると、お姉さんがドライフルーツの試食分を僕に食べさせてくれました。


「あっ、とっても甘いです。凄く美味しいですね」

「乾燥させると水分が少なくなって、甘みも濃縮されるのよ。実は美味しいドライフルーツを作るには、ちょっとコツがあるのよね」


 とっても甘くて美味しいドライフルーツを作るには、きっと僕なんかでは到底できない職人技が必要なんだね。

 僕はこのとっても美味しいドライフルーツを、いくつか購入しました。

 このドライフルーツはとっても甘いから、少しずつ大事に食べようと。


「はい、たんとお食べ」


 宿に戻った僕は、宿で提供される夕食を食べています。

 なんだろう、お肉を焼いただけなのにセルカークの街の料理と味が違うよ。

 料理のタレとか、使用する肉が違うのかな?

 勿論、美味しいから全然問題ないけどね。

 そして、馬車に乗っていただけなのに疲れていたので、あっという間に寝てしまいました。

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