小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~
藤なごみ
第六十九話 二つ名が広まっています
からからから。
「えっと、途中で二泊してアマード子爵領に到着するんだね」
僕は街で買った地図を広げながら、今後の予定を考えていました。
男爵領で一泊して子爵領にある街でもう一泊すれば、子爵領の中心都市に到着します。
からからから。
「セレンお姉さんに言われて、馬車用のクッションを買っておいて正解だね。馬車の振動がすごいんだ」
馬車は思った以上に揺れていたので、クッションを敷いてなければお尻が痛くなっちゃうね。
でも、クッション一つだけだとまだ無理なんで、クッションを二個重ねにしています。
「おじさん、暫く森が続くんですか?」
「あと二時間は森が続くぞ。その後は、男爵領まで平原だな。畑も結構あるぞ。森を抜けたら一旦休憩して、暫く行った所にある村で昼食だ」
馬を操っているおじさんに道中のスケジュールを聞くけど、やっぱり森に囲まれたセルカークの街とはだいぶ違うんだね。
森を通る街道では、特に何も起きませんでした。
普段はオオカミとかが出てくる事があるって聞いていたんだけど、森を抜けた先にある休憩ポイントまで全く現れませんでした。
「ははは、そういえば守備隊と軍が誰かの為にと張り切って、街道に現れるオオカミとかを狩っていたな」
おじさんが笑いながら話をしてくれたけど、守備隊の皆さんが僕が安全に旅ができるようにしてくれたんですね。
やっぱり守備隊の人達は、とっても良い人ばかりです。
「お菓子をいっぱい貰ったんで、皆さんも食べて下さい」
「おお、悪いね」
「じゃあ、昼食前だから少しだけ貰うとするか」
僕も、街の人に沢山貰ったお菓子をおすそ分けします。
僕一人では全部食べきれないし、皆でおしゃべりしながら食べた方が美味しいよね。
こうして、休憩を取りつつ昼食を食べる村に到着します。
「おかみさん、半分にしてもらって良いですか?」
「あいよ、ちゃんとお願いができて偉いね」
昼食は定食屋さんなので、僕は半分のサイズにしてもらいます。
お腹いっぱい食べる為にも、早く大きくなりたいな。
そして、昼食を食べて三時間程で今日の宿泊地の男爵領に到着しました。
思ったよりも大きい街で、人も沢山行き交っていました。
「明日は朝早く出発しますか?」
「次の村までの馬車便は、だいたい今朝と同じくらいだな。ちょっと余裕を持つくらいで良いだろう」
今日乗ってきた馬車便は明日はセルカークの街に戻るので、明日は別の馬車になるそうです。
乗る馬車の確認も終わったので、僕はおじさんに教えて貰ったお勧めの宿を目指します。
「わあ、大きな宿だね」
おじさんに教えて貰った宿は、三階建ての大きな宿でした。
一階が食堂で、多くの人で賑わっていました。
僕は、宿のカウンターっぽい所に歩いて行きます。
「すみません、一泊お願いします」
「えっ? 君は随分小さいけど、本当に宿に泊まるの?」
「はい、僕はこう見えても冒険者なんです。セルカーク直轄地からアマード子爵領へ向かっている最中です」
「あらやだ、ごめんなさいね。冒険者カードも本物ね。じゃあ、二階の部屋を用意するわ。夕食は一階の食堂で食べてね」
僕は小さいから、普通はお客さんって思わないよね。
宿のおかみさんに案内して貰った部屋は、冒険者ギルド併設の宿よりもずっと広い部屋で、ベッドもふかふかでした。
部屋の確認も終わったので、僕は一階の食堂に移動します。
僕は小さいから、階段の移動が結構大変だな。
「はい、お待ちどうさま。小さいサイズのピザね。あと、ジュースよ」
食堂で僕が頼んだのは、トマトと野菜を使った小さなビザです。
お酒のおつまみに出される事が多いので、メニューに小さいサイズがありました。
ピザをもぎゅもぎゅと食べながら食堂を見回すけど、宿に泊る人だけでなく仕事帰りに食堂でお酒を飲みながら夕食を食べている人も多そうです。
さて、ピザも食べ終えたし、部屋に戻ろうかなと思った時でした。
「なんだと、やるのか!」
「そっちこそ、俺に歯向かう気か!」
あ、酔っ払い同士の言い争いが始まっちゃいました。
セルカークの街でも冒険者ギルドの食堂で酔っ払いがいたけど、喧嘩する程お酒を飲む人はいなかったな。
バキ、ボカ!
「殴り合いになったぞ、守備隊を呼んで来い!」
あ、セルカークの街の事を思い出していたら、酔っ払いの言い争いが喧嘩に発展しちゃった。
流石にこれは良くないなと思ったら、事件が発生しました。
ひゅん、どん。
「あっ!」
酔っ払いの一人が飲んでいた木のコップを投げつけたけど、全然違う方角に飛んで行っちゃって、無関係の若い女性の頭に当たってしまいました。
酔っ払いはお互いにヒートアップしていて、女性が怪我をした事に全然気が付いていないけど、周囲の人はかなり不味い事態だと思って、酔っ払いを羽交い絞めにする人と女性を治療する人に分かれていきました。
勿論僕は女性を治療する方に向かっていきます。
「いたたたた……」
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
木のコップが当たった女性は頭から血を流していて、一緒にいた男性が布で女性の頭を押さえていました。
「ぐっ、離せ、離しやがれ!」
「俺は、こいつを殴らないと、気が済まない!」
周りの人に羽交い絞めにされている酔っ払いはともかく、怪我をした女性を早く治療しないと。
「僕は回復魔法が使えます。直ぐに治療します」
「えっ?」
一緒にいた男性が人混みを縫って現れた僕にびっくりしているけど、僕は気にせずに治療を開始します。
「直ぐに良くなりますからね」
「あっ、わあ、傷が治った!」
幸いにして深い傷ではなかったので、直ぐに女性の怪我を治療できました。
女性が驚いた顔をして、怪我が治った自分の頭をペタペタと触っています。
一緒にいた男性もかなりビックリしていて、僕と女性を交互に見ていました。
「レオは素早い治療だったな。流石は小さな魔法使い様だ」
「「「小さな魔法使い!」」」
馬車のおじさんがたまたま食堂に来ていたらしく、僕の後ろから声をかけてきました。
おじさんが僕の二つ名を言ったら、何故だか周りの人がとっても驚いていました。
「レオ、自分が思ってる以上に小さな魔法使いの二つ名は遠くまで広まっているんだぞ。何せ、セルカークの街を救った英雄だからな」
「えー! そんな事になっているんですか!」
「おうよ。他の街に行商に行った連中が、レオの事を話しまくっていたぞ。小さいのに凄腕の魔法使いがいるってな」
おじさんから聞いたまさかの話に、僕はとってもビックリしてしまいました。
うう、悪い噂ではないから否定しづらいなあ。
「ともあれ、レオがここに居て助かったのは事実だ。また噂が広がるかもな」
おじさんはニヤニヤしながら、僕の頭を撫でていました。
すると、怪我をしていた女性と一緒にいた男性が僕の手を取ってきました。
「怪我を治してくれて、本当にありがとう。凄い魔法使いがいるって噂だったけど、本当だったわ」
「今は持ち合わせが無くて悪いけど、せめて食事代は出させてくれ。彼女を治療してくれてありがとう」
二人が笑顔でお礼を言ってくれたので、僕は治療して良かったなと思いました。
折角のご厚意なので、食事代は二人に払って貰いました。
因みに、酔っ払いはいつの間にか守備隊にドナドナされていて、食堂から姿を消していました。
そして僕がセルカークの街で何をしていたかを知っている人によって、僕がどれだけ凄いかを話す場になってしまい、僕は恥ずかしくなってさっさと宿の部屋に戻ってしまいました。
因みに、宿のベッドはふわふわでとっても気持ち良かったです。
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