第19話 後輩

 冷静に考えると、俺が先に入って注文しているがご馳走してもらっていないのではないか? 森下を見ていると、本人も気づいたようで目が合う。俺が飲んでいるグラスを見た後えへへと少し恥ずかしそうに笑って注文を続けているが、俺の分も注文してほしい。もう今は要らないが。


「ごめん、忘れてた! 今度またちゃんと奢るよ。今度は任せて!」

「あ、ああ。俺も何も考えず注文してしまったからな、気にしないでくれ」

「ごめんね」

 2人が座る。森下は俺の隣、謎の後輩?が前の席に。

「野口先輩、上中先輩、初めまして。明智と言います。1年生です」

「初めまして。バスケ部の後輩?」

「いや、昔から家が近くてよく遊んでいたんだ。幼馴染的な?」

「みなみちゃんには昔からお世話になっていて。今も時々勉強教えてもらったり、遊びに行ったりするんです」

そう言って明智はニコッと笑う。予想通り1年生だったが、後輩というより友達という感じか。元気で明るそうで、タイプ的には森下とよく似ている。


「お二人は写真部なんですよね? でしたら後藤とかわかります? 結構仲良いんですよ」

「そうなんだ。ちょうどさっき上中と後藤さんの話していたんだよ」

「ええ。今度一緒に休みの日に写真を撮りに行こうって。彼女は色々と面白いわね」

「そうです、中々変わっていますよね。その辺りが話していて好きなんです」

「そういえば何部に入っているのかな?」

「一応軽音楽部なんですけど…… 最近はあまり行けていないです。なので帰宅部みたいなものですね」

「ああ、軽音か。ギターでも弾いているのか?」

「いえ、ボーカルです。ただメンバーとあまりソリが合わなくって。集まらなくなっちゃいました。まあみんなグループを大体掛け持ちしているんで私がいなくても特に問題ないんですよね」

「雫ちゃんもキャラが濃いからねえ。よくぶつかっちゃうんだよね。特に普通の人とは」

 苦笑しながら森下が言う。アクが強い感じか。見た目は普通だが、わからないものだな。深く付き合うと色々わかってくるのかもしれないが。

「ははは、後藤さんにもよく言われます。まあでも性格は変わらないんで、仕方ないですね。相性がいい人を探すしかないんですよね」


「その気持ちはわかるわ。私も、あまり合う人がいないのよね。性格は変わらないで仕方ない」

 見た感じ上中もあまり友達が多いタイプではなさそうだがやはりそうか。話していて違和感があるわけではないが……

「2人とも普通に見えるけどなあ」

「ね」

「みなみちゃんや野口くんは良く言えば懐が広い、悪くいうと皆に等距離で付き合うタイプだからじゃない?」

「上中先輩言いますね。まあみなみちゃんは確かにそんな感じですが。皆に程よい距離で仲良くするタイプですもんね」


 森下と2人顔を見合わせる。形勢が悪くなってきたな。

「まあ、それはいいが…… 今日はどうしたんだ?」

「ちょっと2人にお願いがあってね、来てもらったの」

「俺と上中?」

「そうそう。雫ちゃんの話を聞いてて、2人ならきっと協力してくれると思ってね」

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