第12話 手がかり

 森下には本人が望まぬ形での恋愛トラブルが多そうだ。こっそり嫌いな女子もそれなりにいるのではないか。やはりその路線での犯行か、と考える。


弁当を食べながら高と酒井と話すいつもの昼休み。

「なあ酒井と高は、恋愛絡みでトラブルになったことあるか?」

「私? ないない。振ったり振られたり、それくらいはあるけどそれでお終い。そっからトラブルになったことはないなあ」

「俺もないな。告白してダメだった時はショックだったけど1週間もすればもう次の恋だったよ。大体そんなもんじゃないか?」

「そうね。高校生の恋愛なんて普通そんなものだと思うけど。野口には中々理解できないかもしれないけど」

「なるほどなあ…… そんなもんか。好きな人と付き合えなかったり、恋人と別れたら次って感じか」

「うん。そうだと思うよ。9割9分はそんな感じだと思う。たまーにそうじゃないのが…… まあいいや」

「野口、なんかあったのか?」

「ん、ああ。まだ可能性なんだけどな。恋愛絡みで恨みがあるのかなあとか思うことがあったり」

「また? まだこの高校にそんな人いるの? もういないと思うけどなあ」

 そう言いながら笑う酒井。彼女は確かに既に転校してしまった。あそこまで激烈な感情を持つ人がまだいるのか、と思うとゾッとするのも事実である。


「野口くん、ちょっといいかしら?」

 声に振り向くと上中がいた。

「ああ、どうした?」

「ちょっと話したいことが。すぐ終わるから来てくれる?」


 上中に連れられて廊下に出る。

「休み中、ごめんなさい。例の件でちょっと思いついたことがあって」

 例の件。響きがちょっとかっこいいな。スパイみたいだ。ニヤニヤしていると不審そうな顔で見られる。

「その、手紙の意味なんだけど…… 「後ろから襲うぞ」って意味じゃなくて本当に「背中に気を付けて」って意味だったらどうだろうと思って。優しい人からのアドバイス」

「嫌いとか好きとかではなく親切ということか?」

「そうそう。ただ、そこから先はまだ思いつかないんだけど…… なんとなく思ったから伝えにきたの」

 ふーむ。考えてみる。確かにその方向性は検討していなかったな。ただ背中に気を付ける必要が何かあるか? ゴミがついていたとかなら直接言えばいいしなあ。手紙を書くほどでもない。


「それだけ。じゃあまた後で」

「ああ、俺もその可能性をちょっと考えてみる」

 そういうと上中は教室に戻っていく。俺も席に戻ると2人が不思議そうな顔をしている。

「上中さん? 珍しい組み合わせだな」

「ああ、最近色々あってな」

「へー。まあ、好きにしたらいいとは思うけどあの人ちょっと苦手なんだよね。ごめんね。なんか1人だけすごい大人っぽいというか、ちょっと冷めているというか」

「わかる。俺も気軽には話しかけられないなあ。すごい冷たく対応されそう」

「昔、体育館で森下さんと安達さんが喧嘩したことあるんだけど、その時森下さんが仲裁したの。どうやったかっていうとね…… 走って体育館のブレーカーを落として真っ暗にしたのよ。2人はそれで落ち着いたんだけど、そんな手法すぐ思いつく? すごいというか怖いなと思って」

「確かに冷静な感じはあるよな、でもまあ良い奴だよ」

「野口が言うならそうなんだろうけどね」


授業中手紙の意味を考える。

「後ろがほんとに背中なのかもね」

背中に気をつけろ? まず前提として危害を加えるのではなく、注意喚起だったら? どういう可能性がある?

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