第11話 不穏な朝

次の日の朝。きちんと早起きをした。森下の朝練の時間に合わせて学校へ向かうと、なぜかまだ誰もいない教室に森下がいる。そして周りが心無しかどんよりとしている。

「なんかあったのか?」

「ああ、例の件とは別なんだけどね……」

 そう言って苦笑する森下。そう言われると気になる。俺は前の椅子に座り、向き合うことにした。

「気になるなあ。聞かせてくれ」

「ああ、うん。大したことじゃないんだけど…… 明美ちゃんと喧嘩してね。電話で大声で罵り合いだよ」

「おお、それはそれは……明美ちゃん…… 誰だっけ」

「乃木さんだよ」

「ああ、乃木か。そんな喧嘩するようなタイプには見えないけどな」


 隣のクラスの乃木は、見るからに優等生な真面目タイプに見え、話し方もおっとりしている。大声出すイメージすらない。

「まあ、その…… 明美ちゃんの好きな人が最近私のことを好きになったらしくてね…… で、文句言われたからそんなこと言われても困る、と答えたら大騒動だよ」

 苦笑する森下。

「色目を使わないで、とでも言われたのか?」

「そんな感じ。そんなこと言われてもねえ。こう言うのもなんだけど、勝手に好きになられただけでそんなの、中々厳しいものがあるよ」

「まあ、一晩経てば気持ちも切り替わっているんじゃないか?」

「うーん。今までの感覚だと、お互いにごめんねって言ってまた元に戻るけどちょっと距離が出来る感じになるんじゃない? なかなかこればっかりはねえ」

「まあ仕方ないか。しかし友達が1人減るのは悲しいな」

「変わらず友達だよ? 少し距離は出来るけど変わらず友達。今まで同じように接するつもりだけどね」

「なるほど。でも遊びに行ったりは出来なくなるんじゃないか?」


「そんなことはないけどね。元々2人で遊びに行くなかったし、バスケ部で遊ぶ時は変わらずだと思うけど。こういうのは慣れているからまあ上手くやるけどね……」

「恋愛沙汰は難しいよなあ……」

「中々ね。こっちとしては気を付けて距離を保っているつもりだけど向こうからするとそうじゃなかったり。こっちとしては友達の1人のつもりなんだけどね」

「男女の友情は成立しない?」

「察しがいい男の子なら成立しなくもないけど、中々。ある日急に変わったりするし。野口君は察しが良いタイプだよね」

「うーん、まあ距離感には気を付けているな。誰にでも同じように接するようにはしているが…… ただまあ俺も色々あったよ」

「あー聞いたことあるかも。まあ、皆そうだよね」

「頭ではじゃあ友達なんて作らなければいいんじゃないかと考えることもあるが、やっぱり友達がいるからこその楽しみもあったり。難しいよなあ」


「朝からごめんね、暗い話で」

「いや、色々聞いてすまなかった。似た者として共感は出来たよ」

「ありがとう! さ、とりあえず謝罪Lineでも考えますかー」

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