第9話 アンチアイドル

「ファンクラブで森下の情報収集しているというやつを探し出すか?」

「うーん、犯人が臆病で周りをこっそり動き回る人なら可能性としてはあるけど、あんな手紙を出してるわけでしょう? そう考えるとちょっと犯人像と当てはまらないかも」

「そうだなあ。色々話を聞いた結果、好きすぎて直接アプローチしたという感じではないしな」

「ええ、いっそのこと次は逆の人に話聞いてみない? みなみのこと嫌いな人」

 アンチ森下ということか。確かに憎しみで、という可能性はあるな。

「ありだな。ただ、候補はいるのか?」

「ええ、安達さんね。一回みなみと喧嘩したこともあって仲は悪いはず。明日話聞けるよう調整してみるわ」

「了解」

 安達はちょっとギャルっぽい、サッカー部のマネージャーだ。喧嘩するほど仲が悪かったんだな。まあ気は強そうなので、わからなくもない。しかしほとんど接点はないので、向こうも話し辛いかもしれないな。ちゃんとした話の建付けが必要かもしれない。



 家に帰り、食事をした後自室で確認する内容を考えてみる。しかし考えれば考えるほど俺の存在が不自然だ。どういうストーリーにするべきか。まさか本人にあなたを疑っていますとは言えないしなあ。何か別の理由が必要だろう。俺が安達に好意を持っているという建付けも考えたが、そこで森下の悪口を引き出すのは難しいだろうしなあ。逆に森下嫌いというのも友達である上中の存在と矛盾する。


「どうするかなあ」


ブルル、スマホに着信がある。上中からだ。


「もしもし」

「もしもし、今大丈夫? 明日の相談がしたかったのだけど」

「ああ、大丈夫だ。明日の建付けだよな? 今考えていたんだが難しいよなあ」

「ええ、難しい。さり気なく話を広げても、みなみの友達である私の手前気を使うだろうし、野口くんの位置づけもよくわからないしね。警戒されて終わりそう」


「あ」

「どうしたの?」

「森下ファンクラブの名前を使うか? 色々な人から話を聞いている、喧嘩の話を教えて欲しいと。俺がファンクラブのメンバーということにしておけばいいだろう」

「なるほど…… いいの?」

「まあ、別にそれくらいで三宅に怒られることはないんじゃないか?」

「そういうことではないけど、まあいいわ。じゃあその体でいきましょう。ちなみに私達はどういう関係にする?」

「まあ友達でいいんじゃないか? 最近仲良くなったという体で押し切ろう」

「そうね、そうしましょうか。じゃあ明日の放課後でお願いしておくからよろしく」

「さんきゅー、じゃあまた明日」


 懸念事項が1つクリアになったので、写真集の構成を考えることにする。なんとなく方向性は見えてきている。テーマは「青春」として、若い初々しい感じを出す方針にしようと考えている。部長いわく、高校生は高校生にしか撮れない写真集があるとのこと。そうなるとやはり青春だろう、という安易な考えだが、考えてみると意外と難しい。どういう中身にしようか、1ページずつ方針を考えているとすぐに時間は過ぎていく。


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